文:ウェイ・イン
訳:東 知憲
はじめに
エキスパートたちからも世界最高のスペイキャスターと認められているスコット・マッケンジーとともに最近開催したセミナーで、私たちは参加者たちに向けてこう言いました。
「フライラインをはじめとする道具類はこの5年間で長足の進歩を遂げており、現代こそスペイキャスティングを習いはじめるのに最高の時なのです」。
F1レースによって生まれた技術革新が、次第に市販車のハンドリングの改善に結びついてくるのと同じく、ディスタンス競技によって研かれたテーパーコンセプトは、市販ラインの(少なくともディスタンス競技に使えるラインを製造しているメーカーのもの)デザインに大きな影響を与えています。また、2004年にはスペイラインに関する新しいウエイト基準が設定され、3M/サイエンティフィック・アングラーズをはじめとする多くのメーカーがそれを基準としたライン製造を開始し、スコットなどのロッドメーカーもそれにならった製品作りに取り組みはじめました。平均的なスペイフィッシャーマンが、これほど多様性に富むパフォーマンスの高いラインを、さまざまなベリー長から選ぶことのできる時代は、今までなかったのです!
それにもかかわらず、とくにビギナーにとってフライラインの選択は簡単になったどころか、逆に混乱が生じているのを知り、私たちは衝撃を受けました。インストラクターとして私たちは、完全にバランスを欠いた道具を持ってやってくる生徒に出会ったことはありましたが、混乱がそれほど広い影響を与えているとは想像もしなかったのです。しかし、視点を業界内から外へと移してみると、たしかに現在の状況は混乱をまねくものと納得できました。
スペイキャスティング用とされているさまざまなラインを検討してみると、多くのメーカーは小さなマーケティング・ニッチに合わせて製品を作ることにかまけ、実際の釣りが要求してくるラインに開発の焦点を当てていないような気がします。そこでこの記事では、専用フライラインの開発の原動力となった3つのフィッシングスタイルと、それらの良さをすべて備えることを目的とした第4のアプローチを説明してみたいと思います。
常識で考えれば、あなたの使うラインは、あなたの釣りのスタイルに合わせるべきであることは言うまでもありません。たとえば、重いシューティングヘッドを使ってヤマメを釣りたいという人はあまりいないでしょう。また、フロリダキーズのターポンを狙うのに、10番のダブルテーパー・ラインを持って行くとすれば、フラストレーションはつのり、キャプテンはプッシュポールで私を串刺しにしようとするかもしれません。スペイラインの選択も同じことです。
★「トラディショナル」もしくはロングベリー・ライン
スペイキャスティングの源であるスコットランドにおける伝統的なサーモンの釣りは、川を区切ったビート単位で行われています。専属のギリーが手入れを行うこのビート、同じクライアントが同じギリーと何年も何年も同じ場所でしか釣りをしないことも珍しくありません。1つのビートをずっと担当して生涯を終えるギリーもいます。ビートはまた、川の両岸で別扱となっている場合もあります。
シーズン初期と終盤を除き、スコットランドの伝統的な釣りは、スローシンキングもしくはフローティングラインを使って行われてきました。アトランティックサーモンは、場合によって反応するスイングスピードが異なるため、スイング中はラインコントロールを維持したいものです。テイ、スペイ、ネスといった大きな川では、遠投できればそれだけサーモンの潜んでいそうな場所にフライを通すことができます(左右の岸でビートが分かれる場合も多い)。
バックキャストのクリアランスは、膨大にはないけれども、それほど制限されているわけではありません。その理由は、ギリーがビート整備と岸辺の植物管理を行っているからです。そのような背景のなかから「繊細に、遠くを」釣るというコンセプトが生まれ、過去150年間、釣り人たちはスイング中のフライコントロールを最優先とみなしてきました。その中でも最大の尊敬を集めるアレキサンダー・グラントは、「繊細に、遠くを」というスタイルを、1800年代後半から1900年代初頭にかけては夢想もできなかったレベルまで洗練させたのです。遠投を実現し、かつスイング中に最大のフライコントロールを確保するという「特定用途基準」に基づき、彼はコンティニュアス・テーパーを持ったロングベリー・ラインを開発しました。グラントはまた、ラインのストリッピングとシューティングを根本的に非効率とみなし、距離の長さの長短を問わず、ラインは流れきったフライをただちにピックアップし、キャストして釣りを開始できる能力をそなえているべきだと考えました。
しかし残念なことに、グラントの著作のほとんどは1942年に彼が死去したことで失われ、つい最近まで、ある種の「スペイフィッシング暗黒時代」が続いてきました。1960年代から1990年代初頭までは、「繊細に遠くを」釣りたい人はダブルテーパー・ラインを使うしかありませんでした。ご存じのとおり、ダブルテーパー・ラインとは、長いレベルラインの両端に比較的短いテーパー部を設定したものです。DTラインは、キャストをするためにストリッピングやシューティングを必要とせず、比較的繊細にフライをプレゼンテーションでき、メンディングも行いやすくなっています。しかし、DTラインの遠投性能ははなはだ心許ないものです。
1990年中盤、グラントに傾倒する人々の小さなグループが、彼の考案になるコンティニュアス・テーパーを持ったロングベリー・ラインの特性を活用しようと、市販品を切り貼りして自製ラインを作り始めました。そのうちの1人は、スコットランドを流れるツイードリバーの畔、ピーブルズに居を構えるデレク・ブラウンです。そして私(と釣り仲間のスティーブ・チョート)は1996年、スティールヘッドを「遠くから繊細に」釣るためのラインを求め、コンティニュアス・テーパーのラインデザインに没頭しはじめました。私たちの努力は、3M/サイエンティフィック・アングラーズが製造するXLTスペイラインとなって結実したのです。
XLTは、まず第1にフィッシング用のラインとしてデザインされており、ストリッピングやシューティングなしにロングキャストができ、かつスイング中に最大のフライコントロールが可能な製品となっています(寒冷気候でもロングキャストとフライコントロールができるよう、シンクティップの使用も可能です)。しかし同時に、XLTは超遠投能力も備え、国際的スペイキャスティング競技会で使用された初の市販製品となりました。XLTは現代的なスペイキャスティング競技会に革新をもたらしたものであるとはいえ(そして、スコット・マッケンジーは2005年、110年間にわたって不動であったアレキサンダー・グラントの記録をXLTで更新したとはいえ)、このラインはもともと、きわめて現実的なフィッシング場面を想定しているのです!
効率的なフィッシングに理想的であり(超遠投でもストリッピング&シューティング不要)、スイング中に最大のフライコントロールを実現する製品ではありますが、XLTをはじめとするロングベリー・スペイラインは以下のマイナス点も存在します。
・ロングキャストには、バックキャストのクリアランスが相当必要
・ラインのポテンシャルを発揮するためには高い技術が必要
・重いフライや重いシンクティップのキャストは難しい
・強風下のキャスティングは難しい
★「スカンジナビアン」シューティングヘッド
北欧諸国におけるアトランティック・サーモンの釣りには、長いストーリーと歴史があります。スコットランドと異なり、スカンジナビアの川は傾斜が急で流速が速く、バックキャストのクリアランスもほとんどありません。そんな状況下でフローティングライン、シンキングラインの両方を使い、サーモンの目の前にフライを届けるため、彼の地のフライフィッシャーたちは伝統的なスペイキャスティングの技術を短いシューティングヘッドに適用するようになったのです。シューティングヘッドはほとんどバックのクリアランスを必要とせず、またロングベリーよりもシンキングラインのリフトが簡単なため、スカンジナビアの釣りの主流となっています。バックのない場所から中距離、遠距離にフライをキャストすることがまず重視され、スイングのコントロールは二次的と考えられています。
シューティングヘッドの釣りにはランニングラインを併用しなければならないため、以下のマイナス点が存在します。
・キャストごとにストリッピング&シューティングを繰り返す時間ロス
・シューティングラインの絡み
・ロングベリーよりも超遠投性能に欠ける
・大型フライ、重いフライの扱いにくさ
・とくに重いシンキングラインの場合、大きな角度変換の難しさ
(後編につづく)
Way Yin プロフィール
8歳の時フライロッドでなくスピニングロッドを使ってフライでバスやパンフィッシュを釣る。11歳で初めてフライロッドを組立てそれ以来フライフィッシングにはまっている。80年代後半にはシアトルで研修外科医を務める傍らスチールヘッド熱に罹り、それ以来スチールヘッドやアトランティックサーモンを太平洋北西部(PNW)やロシアのコラ半島に追い求めている。
1996年からスペイラインをつなぎ合わせて使い始める・・・そしてそれがSAマスタリースペイXLT—アレキサンダーグラントの理論を元に世界で初めて商品化されたロングベリースペイライン—のデザインに繋がった。XLTは2002年の発売よりメジャーなインターナショナルスペイキャスティング競技会で使われている。イギリスで行われたMUSTOインターナショナルオープンスペイキャスティング競技会で2度3位に入り、2004年のUKサーモンディンスタンスチャンピオンに輝いた。FFFをはじめとする多くの団体のキャスティングインストラクターの資格を持ちSA/3M社のプロスタッフとして活躍する一方でスコットロッドのプロスタッフも務めているが本業は医者である。
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