私が初めてスクールに参加したのは、23か24才のときでした。それまでは、ルアーフィッシングに行くときに一緒にフライロッドを持っていくという感じでしたが、フライキャスティングの練習はずいぶんやっていました。 本を読んだり、ビデオで勉強したり、あるいはショップで教えてもらったりと練習をして、それなりにラインも飛ぶし、釣りもできるようになったものの、ロッドを振っていると、すぐに右手が痛くなってしまう。腕はパンパンにはってくるし、手首は痛くなるし、特に親指が耐えられなくなってきてしまう。とてもとても1日中、振っていることができませんでした。
そのような時に、つり博(当時はフィッシングショーだったか)で田代さんのデモを見て、「手が痛くなってしまうんですが・・・」と質問したところ、「それは力の入れすぎだよ、教えてあげるからスクールにおいで」と言っていただいたのが、スクールへ参加したきっかけでした。
早速申し込んだ3月の河原でのキャスティングスクール。1人で参加しても大丈夫だろうか、場違いなレベルじゃないだろうか、といった不安が多少なりともあるなかで参加した、初めてのスクール。いざ始まってみると、そのような気持ちもただの取り越し苦労でした。全体的なレッスンと各個人のレベルにあわせたレッスンがうまく組み合わされ、1人ぽつんとしてしまうこともありませんでした。なにより“楽しい”ということを体験できるスクールでした。つり博でキャスティングデモは見ていたものの、このスクールで改めて見て、“これがフライキャスティングか!”と驚いた記憶があります。ロッドを楽に振っているのに、ラインは生きているように飛んでいく。実際に自分でやってみると、飛ばそう飛ばそうとして力が入るほどラインは飛ばなくなってしまう。これでもか、というくらい力を抜くと、不思議と素直に飛んでいく。「やさしく振るんだよ」って教えてもらって、それから、ますますフライキャスティングが楽しくなっていきました。
フライフィッシングへの興味が加速し始めたのが、次に参加した川での実釣スクールでした。川での釣りは初めてで、なにもかもが新鮮でした。川の水はきれいですし、水に浮くドライフライで釣っていると、魚がフライにくるのが見えるんですよね。フライがスゥーと魚のほうへ流れていって、それを見つけた魚がスゥーと水面にあがってきて、パクッとくわえる。その一部始終が見えるのです。これはおもしろい。が、しかし、いつもすぐフライをくわえてくれるとは限らない。何かが気にくわないと、フライを見にはくるけれど、直前でUターンしてしまったり、近くをフライが流れても全く無視したり。ますますおもしろい。スクールを通して、この楽しい遊びを楽しむための、様々な技術、大切なことをじっくり教えてもらいました。自分の目で見て、直接教えてもらうと上達も違いますね。しかし、それだけにはとどまりませんでした。フライフィッシングとは、自然との関わりが非常に強い遊びです。魚を釣るためであっても、一歩踏み込むと魚のことは当然ながら、そもそもフライが真似ている魚の餌となる水生昆虫のこと、魚のすんでいる川のこと、それを取り巻く森のことなどに関心が向いていきます。そのようなことの話も随所に散りばめながらのスクールで、私がその後スクールのリピーターとなったのも、フライフィッシングにはまっていったのも、これらのことにあると思います。
この川でのスクールのあとから、少しずつ道具を揃え始め、次の年、再度、キャスティングスクールに参加しました。「うまくなったね」って言われたときには、うれしかったですね。このころにはワンキャストでフルラインを投げるようなことの真似事もできるようになりましたが、今度は、ループの大きさの投げ分けや異なるロッドの投げ方など、ステップアップへの課題をもらいました。
それなりにキャスティングもできるようになり、勢い勇んで参加した2度目の川でのスクール。ところが意気込みとは裏腹に、大問題が発生しました。それまでに20m以上の距離を楽々キャストできるようになっていたにも関わらず、ほんの4〜5mのキャストが思うようにできないのです。目の前のスポットにフライが入らない、ラインにたるみを作れと言われても、どう投げてもピーンと真っ直ぐにのびてしまう。
たかだか数mのラインのコントロールができないんです。数ヶ月前のスクールではラインを真っ直ぐのばすことに一生懸命で、今度はたるませることに集中して頭の中は大パニック。このとき“ホントにフライフィッシングは奥が深い”と思いました。キャスティングだけをみても、こんな感じなのですから。抜けることのできない深みに、さらにはまっていきました。
次に参加したのは、小渓流で木が覆い被さったようなところで行うブッシュマスタースクールでした。短いロッドを使って、上下左右制限された中でのフライフィッシング。スクールを通して好きになったフィッシングスタイルのひとつです。障害物をかわしながら釣っていくのですが、コンパクトなキャスティングの中にいろいろなテクニックを織り交ぜていく。それが非常にかっこよく見え、しかも釣れると自分がうまくなったような錯覚に陥る。このショートロッドの世界、あるいはショートロッドそのものがとても気に入りました。これで自分のフライフィッシングの世界がまたひとつ広がりました。
いろいろ参加したスクールの中でも忘れてはならないのは、水生昆虫とフライフィッシングとの関係に重点をおいた、通称「エントモロジースクール」です。水生昆虫の観察や、その結果をどうフライフィッシングに結びつけるか、観察した水生昆虫のフライタイイング、さらには観察したことと自然との関わり合いなど、非常に興味深い内容で人気スクールであるのもうなずけます。また、私がフライフィッシングにはまる駄目押しをしたのが、このスクールと言っても過言ではありません。
まずはロッドを置いて、川のまわりで飛んでる虫などを見て、川に入って、石をひっくり返したり砂の中を見たりして、何がいるか観察したり。これだけでも十分、楽しいものでした。いるんですよね、いろんな虫が。見つけた虫をよーく観察して、その日魚の餌になりそうなものを予想する。そして、そのフライで釣ってみる。例えば、“オオマダラカゲロウが羽化しそうだ。オオマダラカゲロウのフライをつけて、やってみよう”とか。そして釣った魚の食べていたものを見て、自分が考えたことが正しかったのか、確認してみる。思った通りになると“やったね”といった感じですが、いつも予想が的中するとは限らない。自然相手だから当然のことですが、これがとてもおもしろい。それに、すごいですよね。あたかも自然のサイクルを解明しているかのようでもあります。ここで習ったのは、自然観察ということ、そこからフライフィッシングを考えていくということ、それに自然観察から自分のイメージしたオリジナルフライを作っていくということでした。
フライフィッシングとは、一見複雑そうに思えますが、このスクールを通して、逆に非常にシンプルなんじゃないか、と思いました。自然を観察して、起きていることをそのままやってみる。このシンプルさの中に、とても奥深いものがある。そんな印象を受けました。
その後もいろいろなスクールに参加して、いろいろな場所に行きましたが、毎回なにかしらのドラマがありました。なにしろ笑いの絶えないスクールです。それに、常に新しい発見や課題が得られる。だから、ステップアップもするし、楽しいんですね。しかし、これらのスクールを通して得た大きなことは、フライフィッシングのことだけでなく、一緒に楽しむ仲間でした。年齢、性別、仕事など関係ない、フライフィッシングというだけの共通点から知り合った仲間で、その後も一緒にあっちの川に行ったり、こっちの川に行ったり、とうとう海の向こう側の川にまで行きました。
今までいろいろなスクールに参加してきて、技術はもとより“フライフィッシングとは”というところから教えてもらいました。これからも川に行ったり、スクールに参加するなかで、フライフィッシングの幅を広げるとともに、少しづつでも“自分らしいフライフィッシング”というものができあがっていったらいいなと思います。
最後に、スクールのなかで言われていた印象に残っている言葉で、締めくくりたいと思います。
「フライフィッシングにおいて、キャスティングはその半分にすぎない。残りの半分は、マスが食べている水生昆虫を観察して、フライを巻くことだ」