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小甲 芳信

Fly Fishingプロスタッフ小甲 芳信 カブちゃんの北の便り「2019海アメ・後編」

2019.06.19

カブちゃんの北の便り「2019海アメ・後編」

前回のお便りでは、サケ稚魚の釣りを中心にお話を進めてきましたが、今回は『カブちゃんのとっておき!』を詳しくお伝えしてみたいと思います。

 

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さてさて、シーズンも終盤に差し掛かかる4月下旬から5月にかけては日本海での海アメの釣りでは、それまでの海況とは打って変わって、水温の上昇と共に様々な変化が表れ出す時季でもあります。例えば各種魚類の稚魚達が見え始め、また周囲の岩盤や根に付着する海藻類が大きく成長を見せ始めるなど、それぞれの海洋生物が北海道の短い夏へ向け、いっせいに動き出す頃でもあるのです。

 

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そして私達が恋焦がれるアメマスやサクラマス達も、雪代に乗って河川へ遡上する前段階として海岸線にほど近い浅瀬へと生活圏を移してくるのです。『微弱生物の安全な生育場所の形成(海藻類の成長) → 生態系ピラミッドの底辺が形成(そこを隠れ家とする稚魚類の発生) → 食物連鎖が形成(捕食者の侵入)』といった、極めて当たり前な自然の摂理なのです。

 

これまでのマス達は、エサとなるイワシやオオナゴ、オキアミなどを追って沖合に生育場所を起き、その魚体を大きく成長させてきました。そして、浅瀬へと移動してきた時には、これまでよりもより雑多なエサを捕食できるチャンスが増え、同時に捕食の選択肢も増えるのです。その良い例が、河口付近でルアーには追うだけだった魚に対して、サケ稚魚(小さなベイト)をイミテーとしたフライだけが釣れるという現象があります。これはしばしばあり、その辺を鑑みて、今回の“とっておき!”を幾つか掘り下げてみたいと思います。

 

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前回のお便りでもお伝えした、午前中に友人らと入った岸から広く張り出した岩盤上でのこと。朝の食いが立っている時間帯だったこともあり、友人へやや大ぶりなストリーマーを勧めていました。すると程なく、ゆうに60cmを超えるアメマスがフライを追いかけてきました。ですが、これまでも多くのルアーを見てきたであろう居着きのアメマス故に、足元まで追いかけてきただけで、フライを咥えようとはしませんでした。

 

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こういった行動が頻繁に見られるようになるのはこの時期からとても多くなり、人為的なプレッシャーもさる事ながら、前述した『捕食の選択肢』の幅が広がっている典型的な状況と言えるでしょう。ちょうど前夜の雑談の最中に「フライを食い損ねた場合と違い、ゆっくりと追いかけてきただけの魚へ同じフライを投げ入れても、ほぼストライクは取れないだろう」ということ、また「間髪入れずに、極端にタイプの違うフライを試すべき」ということを友人らへ伝えていました。

 

そしてそんな時の為のフライも渡していたのです。

 

-とっておきその➀-

 

『魚から見て「なんだコレ?」のココロ』

 

もしかしたらコレを読んでいる皆さんに笑われてしまうかもしれないフライですが、ボクなりに真剣に考えて巻いたパターンです。まず最初に、特徴的なラバーレッグが目に入ったことと思います。これは、アトラクター的な意味合いが多くを占める中でも、その実、甲殻類などには、身体に不釣合いな程の立派な脚を持つ種が多く、そんな特徴を表しているのです。

 

また、ピンクといったちょっと妖しい色合いに関しても、これまでオキアミやイサダなどを捕食してきたであろう魚にとって、捕食意欲をそそられる色合いでもあるのではないのか?という考察の元、フェザントテールと言うよりはMSC的な意味合いに加え、魚が持つ疑心を逆手に取ったバイトを誘うパターンというワケなのです。

 

『疑心を逆手に取る』とは、いわゆるリアクションバイトに当てはまる部分も多いのですが、そもそもアメマスに限ったことではなく、多くの魚類は目の前の異物に対して「食える物か?食えない物か?」だけが重要であり、食えないと判断した物が危険な物体であれば、すぐさま逃避行動へと移ります。

 

では、一見して安全そうに見えるが「果たして食える物なのか?食えない物なのか?」で迷っている時には、魚には手がありませんから、最終的に『とりあえず咥えてみて確かめる』といった行動を取ります。しかしその美味しそうな色をした食い物のような不審物の中にはTMC9395の#4という強靭なフックが隠されているのです!案の定、友人がアメマスが戻っていったであろう沈み根へ、次の一手を打ち込んだとたんに「ドスン!」とキマった65cmなのでした。

 

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フック:TMC9395 #4
テール:アンゴラゴート(タップスピンク)&ダックマラ-ド
リブ:シルバーワイヤーS
ボディー:アンゴラゴート(タップスピンク)とメルティーファイバーの5:5のブレンド
レッグ:ラバーレッグ(ホワイト)
ウイング:アンゴラゴート(タップスピンク)

 

 

-とっておきその➁-

 

『魚から見て「オヤ?」のココロ』

 

いくらリアリスティックなカタチのフライであっても、そこに生命感が生まれていなければ魚に気に入ってもらえないことは皆さんご存知だと思います。そんな生命感に直結するのは、フライの動きであったり、リトリーブのメリハリであったりもするのですが、それともう一つ、フライそのものの動き(マテリアルの動き)も見落とせないファクターの一つです。

 

そこで僅かな水流によっても動きが発せられる定番のマラブーを追加して、ラバーレッグとの相乗効果を狙ったフライなのです。波や潮流が織り成す僅かな水流でもラバーレッグがユラユラ揺れて、マラブーもユラユラと艶かしく動くことで、スローリトリーブやフォールでも誘える利点は、浅瀬を徘徊するマス達へとても大きなアドバンテージを与えてくれます。

 

基本的に、ストリーマーではリトリーブを止めるとすぐさま見切られることが多々ありますが、画像のような海藻帯の隙間をインターやフローティングでゆっくりと引っ張れるというのは、甲殻類に似せたこともあり、魚から見ても「オヤ?何かエサっぽいのがあるじゃねーか!」と、長い時間アピールできる利点も見逃せないでしょう。

 

また、フライを軽く仕上げていることが根掛かりしないこと、着水のインパクトが静かなことなどにより凪が多いこの時期には魚を驚かせないアプローチを可能にしてくれます。

 

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フック:TMC9395 #4
テール:プライムマラブー(各色)
ボディー:UNIフラットブレイド
リブ:ペレットダブ(各色)
レッグ:ラバーレッグ(各色)
ウイング:アンゴラゴート(各色)

 

 

-とっておきその➂-

 

『「実はカンタンなタイイング!」のココロ』

 

これまでオーソドックスなソルトパターンから派生した海アメパターンなどの場合、アイを着けてからエポキシで固めたり、シザースでシェイプを整えたりと、何かとひと手間もふた手間も掛かっていました。しかし、微妙なバランスを必要とされるストリーマーと比べ、このタイプのフライは、殆どニンフを巻くのと同じようにご自身の好みによって太めに巻いたり細めに巻いたりが可能ですし、何よりも少ないマテリアルでボリュームを持たせることも可能な点が、とても優れているのではないでしょうか?

 

そして生物的な質感を上げるため、ボディーの中にある秘策が、ダメ押しともなる最後の“とっておき”としての『メルティーファイバー』をブレンドすることなのです。実は、今までは誰にも伝えていなかった“ナイショ”のワザだったんですが、このタイプのフライに使っているボディーマテリアルは、ボクの定番である【TMCペレットダブ】なのですが、このマテリアルは繊維の一本一本にハリがあって、スレッドへ巻きつける際には多少手こずる場面がありました。

 

しかし、1.5cmから2cmほどの短さにカットしたメルティーファイバーを、ペレットダブに対して1/3~1/2ほどブレンドすることで驚くほどスレッドへの“絡み”が楽になってきます。そしてその相乗効果というか、本来はこちらの方が重要なポイントなのですが、巻き上がったフライが水中に入ると、ペレットダブ100%で巻いたフライよりも透過性が上がり、またボディー全体を薄いヌメリのようなモノに包まれているような仕上がりになるのです。

 

やはり、そのような質感のフライは、老獪で狡猾な大型のアメマスであっても口を使わせるのでしょう、海藻帯の中から引き出した65cmもフライを見つけると、ゆっくりとした動きでフライへ近づき、いとも簡単に「バフン!」とフライを咥え込んだのでした。

 

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フック:TMC9395 #4
テール:ブロンスマラード
ボディー:ペレットダブ(08グレーオリーブ)60%:メルティーファイバー(ホワイト)40%の比率でブレンド
アンダーボディー:ナイロン系の毛糸
リブ:UVポーラシェニール168グレーオリーブ(敢えて長めのポーラシェニールをランダムに3mm~5mmほどにカットする)
アイ:モノアイ(M)

 

以上で、すっかりシーズンも過ぎ去ってしまってからの2019年日本海の海アメのご報告とフライの説明とさせて頂きますが、また、これを綴っている数日前には、ボクのニューロッドでゴツイ魚体をしたニジマスが釣れましたので、そちらの方も時間を見つけてお伝えしたいと思います。

 

 


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