ブリシーズン開幕!今年の北海道、7月上旬は朝夕にはストーブを灯すほど肌寒い夏の幕開けとなりました。ご無沙汰しております、北海道の小甲です。前回のお便りでは、シーズン幕開けと共に釣れたニジマスの事についてお便りすると言っていたのですが、実は先日、自分でもちょっと驚くようなビックリハプニングがありましたので、今回はそちらの方から先にお伝えしたいと思います。
それは、6月も終わろうとしていた頃、「函館近郊のショアブリがどうやら本格化してきたようだ!」と、友人から連絡をもらい、次いで「ルアーの方々がチラホラとショアからブリを釣り上げている」そんなニュースが地元で飛び交っていました。「ボクもそろそろソルトFFの準備も始めなきゃ」と、思い始めた矢先、どうも今年のブリは大型がかなり入ってきているようで「昨日のブリは8kgあった!」とか「小さくても7kg台だった!」などの驚きの声も聞かれてきました。
そんな話に触発されて、仕事帰りにふらりと立ち寄った小さな漁村でのこと。ここ数日ナブラが見られたとの話を聞いていた漁港を散歩がてら覗きに行ってみると、やたらと頭上をカモメが飛び交っています。
「アレ?」
「も、もしや・・・」
慌てて岸壁をよじ登ると、なんと目の前10メートルほどまで泳ぎ迫ったブリの群れが逃げ惑うイワシへと襲いかかっている真最中ではありませんか! 水面を切り裂く見事な色合いのイエローテールがそこかしこで飛沫を上げています。
咄嗟に踵を返し、慌てて車に戻ろうとした時「ハッ!」と気が付いたのです…。なんとその日はまだソルトFFのタックルを積み込んではいなかったのです!
世の中そんなもんです。道具がない時に限って最高の状況だったり、カメラを忘れた時に限って大物が釣れてしまったり・・・皆さんもそんな経験ってありますよね?この時も、千載一遇のチャンスを指を咥えて見ているだけのボク。これを「トホホ・・・」と言わず、何と言えば良いのでしょう? もう背中に背負いきれないほどの後悔を感じて、泣く泣く帰路に着いたのでした。しかし、確実にブリが沿岸に現れたことを確信したこの日、早速翌日からの仕事の段取りを決めて、早めに上がれる日を作るようにしたのです。
それから2日後のことでした。仕事を早めに終わらせたのは良いいのですが、生憎の小雨交じりの天気に次いで、青物には嫌われる冷たい東寄りの風が吹き降ろしています。ですから、この日は殆ど期待もせず、偵察がてら幾つかの漁港を見て回っていました。そして、ブリ釣りのメッカの漁港にさえ、釣り人の姿は殆どありません。半ば諦め顔でトボトボと岸壁を歩き出したとき、頭上を多くのカモメが飛び交い始めたのです。
灰色の空と同様に沈んでいた気持ちのボルテージが一気に上がり、急いで岸壁を駆け上がると、もうあたり一面の海が沸騰しています。水面が真っ白なのです! 白い飛沫の中に、幾つもの黄色いヒレが飛び交っています。
「わや!!(すごい!!)」
「なまら湧いでる!!(大規模ナブラだ!!)」
その光景に、挨拶を交わした隣のルアーのお兄さんが興奮して声を張り上げるほど、それはそれは刺激的な光景だったのです。ビルの2階建てくらいもある高さでテトラポットが積み重なるその漁港では、ピックアップとバックスペースを考慮し、取り急ぎ【LOOP OPTI#9-10 14ft】のダブルハンドを手に取り、5メートルほどの長ダモと共に堤防の先端へと急ぎます。
傾斜の少ないフラットな足場を探しながら水面を見渡すと、前方50メートル程の海面に直径300メートルぐらいもある巨大なナブラの塊がコチラに向かってきています。もうこの時点でボクの指先はブルブルと震え、極太の糸さえ上手く結べないほど。こんなのは、何年かに1度あるかどうかの状況。そんなスーパーX‐DAYにブチ当たったのですから、平常心でなんかいられません!
とにかく些細なミスだけは犯さないよう注意を払いながら、おもむろにラインを引き出して前方へとラインを着水させます。ナブラの先頭集団は、ボクまでの距離がもう既に30メートルを切っていました。リールドラグをキンキンに締め上げドラグテンションを確認した後、前方20メートルぐらいのところへフライを着水させて、急いで迎撃態勢を整えます。この時は、低気圧によるキツめの東風に影響を受けないよう、ラインはII/IIIをチョイス。
そろそろ先頭集団がフライを見つけられる距離まで来たと思い、短いストロークでリトリーブを開始します。足場が高い位置だったことも手伝い、1~2回のリトリーブをしたところで画像の『ジャミイワシ・パターン』が、水面下を泳いでいるのが目視出来た時でした。幾重にも重なるオリーブの背中と無数の黄色いヒレが飛び交う中から、いっそう大きなブリが
「お?」
「エサかコレ?」
なんて声が聞こえてきそうなほど、静かに泳ぎ寄り(こっちはかなりの早引き)まるでコイのようなモーションで真っ白い口を大きく広げた刹那、あまりにあっけないほど「バクン!」とボクのフライを一飲みに!その一部始終はまるでスローモーションのように感じられ、全てを見下ろしていたボクはフライが飲み込まれたその瞬間、それはまるで“親の仇”とばかりの鬼アワセ。
「ゴッ!」
っと、鈍い抵抗がロッドから伝わったとたん・・・。ここからがこの釣りの最大の醍醐味なのではないでしょうか? キツく締め上げたリールのドラグをものともせずに疾走する、モンスターパワーの青物。“ガチのパワー勝負”がタックルの限界値を知らしめる世界。しかし、実際のところ、ボク自身初めて体感するその圧倒的なパワーに、楽しむどころか、ただただロッドに必死にしがみついているだけ。大体、フッキング直後のランニングラインとバッキングが僅か数秒で一気に飛び出していく様は、トルクフルなターボ車並。
そこからバッキングが50メートルも出た辺りで、更にツインターボ発動! 有に100メートルは出されたでしょうか?これほどまでに長いラインが水中に入っているということは、針に掛かる負荷も相当な荷重となっているはず。ただでさえ津軽海峡に直面した海域で、潮流の速さは道南随一。ですが、さすがは強度に定評のあるTMC784は、そんな荷重などものともせずにガッチリとブリのアゴを捉えているようです。
どのくらいの時間をやり取りしたでしょう? どれほどラインを出されては巻いてを繰り返したのでしょう? ようやくギラリと光る魚体が見え始め、安心したのも束の間、今度はテトラポット目掛けて潜り出します。もはやアドレナリンだかなんだかわからない、得体の知れない汁がボクの身体中を駆け巡り、こちらも最後の勝負と両腕を頭上に掲げて竿を真横に倒します。
万歳状態のまま、最低限のロッドの角度を保ちます。やはりLOOPロッドは良い仕事をしてくれます。一見して伸されているように見えるベンディングカーブですが、かいつまんで単純化して言えば、支点(ベンディングカーブのピーク)・力点(ロッドグリップ)・作用点(魚)の3つの内、魚との距離と負荷が変わるたびに支点のポイントが敏感にスライドしてくれるのですから、ボクのように経験値の少ない人間でも無理なく魚を寄せられます。
そしていよいよランディングっていうところで、はたと気が付きました。なんと5メートルの長ダモが水面まで僅かに届かない! しかし、飛び降りられそうな安定した足場も付近にはない。咄嗟に、先ほど挨拶を交わしたルアーの方にランディングをお願いすると、快く引き受けて下さいました。寄せては離れてを幾度か繰り返しようやくネットに収まった瞬間に、釣りをしていて久々に雄叫びを上げてガッツポーズをしてしまいました!(笑)
ランディングして頂いたルアーの方も振り返りながら「やったねー!!」と、ガッツポーズを返してくれます。いやぁ~、釣り人ってイイもんですよねぇ。こんな時の相互援助っていうのか、助け合い精神って言うんですかね?“困ったときはお互い様”って、子供の頃から親に教わってきましたもんね。で、興奮冷めやらぬうちに、魚を掬って頂いた方へ
「今魚を取りに行きますから、そのままでキープしてて下さい!」
って声を掛けたら
「分かったぁー!!」
と言ったまま、なんとタモを持ち上げてしまった・・・。当然特大のブリの重さに長ダモの柄が耐えられるはずもなく、長ダモからは
「パキャッ!!」
と、乾いた音が鳴り響いた直後「ボッチャ~ン!」と、タモもろとも魚は再び海中へ。あまりの衝撃的光景に、金縛りに遭っているボクをよそに、件のお兄さんは咄嗟に目の前のラインをムンズと鷲掴みにして、魚を一気に抜き上げた・・・。いくら強靭とは言え、凡そ10kg近くに見えた魚をぶら下げられるほど#4フックは強くありません。ブルンと尻尾を振った刹那「ポキッ!」とフックが折れて魚は三度海中へ・・・。束縛するモノなど何も無くなった大ブリは、そのまま津軽海峡へと帰っていきましたよ。
それでも、この魚との決着がほぼ着いていたことと、十分すぎるほど楽しめた時間を堪能できたことで満たされていたボクは、不思議と悔しさなど微塵も浮かばずに、お兄さんにお礼を伝えブリの凄さを語り合っていました。その後も2メートルほどに短くなってしまった短タモをぶら下げて、2匹ほど同様の魚を掛けたのですが、どれもツインターボを発動したところでフックアウト。
この日は、ここへ来ていた釣り人(ボク以外は全てルアーアングラー)の殆どが見事な大型ブリを1~3匹も釣り上げていて、中には釣果以外にも4本も切れたりバラしたりした方もいました。そして釣り上げたブリは、ほぼ80cm~1メートル、重さにすると8kg~10kgと、"海峡番長"の称号に相応しい魚体のブリばかり!! ・・・ってことは、ボクの"マボロシ"となってしまったブリのサイズは???(泣)
途中お話しさせて頂いた、見事なブリを2本も釣り上げられていた高校生アングラーの方は「トップ系のルアーに出る番長サイズのブリ釣りは、最高にエキサイティングです!」と、仰っていました。シーバスタックルでこのような海峡番長を釣り上げるだなんて、そのステキな笑顔とは裏腹に"恐るべき高校生"ですよね。
以上、こんな北海道初夏の“びっくりハプニング”でしたが、長い釣り人生にはこんなエッセンスが入った方が楽しめるというものです。この次はしっかりとこの腕に大きなブリを抱き抱えたいと思っています。・・・よって、今回は魚の写真はありません。写真は近くにいたルアーの方が釣り上げられた魚です。ご期待させた皆様、大変申し訳ありませんでした(笑)また時間を見つけて、ニジマスのことやこれからのソルトシーンのことなどをお便りしたいと思います。
それではお元気で!