この日の相棒は、ここ数年タイミングが合わず情報交換だけとなっていた、この地に来てから何かとお世話になっている、広島でのトラウトの先生とも言える友人。梅雨真っ只中であった当日は、現地に着く頃には気持ちのいい快晴となっていた。
この日選んだ川はお互いがよく知る川ではあったが、2人で行くのは初めてであった。
「どこから始めようか?」
「いつもはあそこから始めるけど?」
「俺もあそこはよく入るよ!」
そんな会話をしつつお互いの意見の一致したポイントへ。ひんやりとした水に浸かり、前後入れ替わりながら打っていくもどこからも魚の反応は皆無。と言っても時間的にお互い承知の上。昼前から行って釣果を出そうというのがこの日の狙いであった。普段は抜けているポイントを探しながら少しは通して見るのだが、全く魚の姿が見えない状況に、各自の手持ちのポイントを魚の反応をみては移動という形を取ることにした。
そうこうしているとようやく、小さなアマゴが顔を覗かせてくれ、この川特有の赤みの強い朱点を拝むことが出来た。
しかし中々後が続かず、残された道はまだ行ったことのないエリアだけとなる。残された時間はそれ程多くはない。ここから新規開拓のスタートである。
「数年前はよくこうやって渓流、本流問わず2人で色々な川を新規開拓して回ったな〜」なんて懐かしさに浸りつつ、駐車スペースと入渓点を探しながら車をひたすら上流へ走らせた。ようやく見つけた入渓点から、川に降り進んでいくとボチボチではあるが魚っ気が出始めた。お互いにポツリポツリと小さいながら、アマゴをキャッチしていくも中々サイズがアップしない。モヤモヤしながら進んでいくうちにシェードの多いエリアが現れた。
「小さめのフローティングミノーに反応が出だしたよ!」
そういう事ならと先行していた友人の一言に44Fを選択する。そうこうしているうちに友人が1キャッチ。先行を交代し自分が先へ。
少し深みのある小さな流れに44Fを放り込み軽くダイブさせ浮き上がって来た瞬間に軽くトゥイッチを入れた瞬間、いい手応えがロッドを通して伝わって来た!ランディングするとかなり良型のゴギ!
惜しくも尺までには届かなかったが、ゴギでこのサイズなら大満足!
久しぶりの良いゴギにモデルになってもらっている間に友人もキャッチし、追いつく頃には撮影中。とりあえず先行ってるよと伝え、ゆっくりと遡行していく。44Fを使い、岩が複雑に入り組んでいる流れをトゥイッチとただ巻きを織り交ぜながら、岩の際をタイトに流していくと小さいながらまたゴギが飛び出してきた!
この魚の撮影中に何かの気配を感じ、ふと流れを見るとカワネズミが水中を泳ぎながら川を下っていくのが見え、何と無くではあるが魚が残っている事に納得できる雰囲気が感じ取れた。その姿を写真に収めることができればこの上なく良かったのだがあの素早い動きでは仕方がない。この後交互に釣り上がって行き、自分の番が回って来たところでこの日一番のドラマが起きることとなった。
しばらく歩いたその先は木々が頭上を覆い、木漏れ日もあまり届かず少し恐怖心を覚える薄暗さ。しかしそこにある流れは、それ程の水深は無いものの開けた場所に一筋の流れが入り、流れが緩くなる辺りには枯れ木がどっぷりと浸かっていた。この区間の感じから
「これはもらった!」
そう思いイメルに変えて慎重にキャストをするも何も起きることもなく、手元まで帰って来てしまった。
「おかしい、本当に居ないのか?」
コースを変え数投するも、何も起きず、そうこうしている間に後ろから友人が追いついて来た。枯れ木の前でターンさせながら
「どんな〜?」と聞かれ
「ダメじゃね〜」と応えピックアップしようとした瞬間…
「魚来とるよー!」
「えっ???」
急にロッドがひん曲がり魚は空中へ!すぐにネットに納めて水中に戻すとその姿は立派なゴギ!
「やっぱりおったね〜!」その瞬間、2人で腹の底から大笑い!昨シーズンに続き、まさか2年連続で尺ゴギを手にすることができるとは夢にも思っておらず、そしてこのドタバタ劇にしばらく河原に2人の笑い声はこだまし続けることとなった!
良いサイズながら体型や体色から老齢なことが伺え、手短に撮影を済まし元の流れにそっと頭を向ける。すっと動きだした魚体は、一目散に枯れ木の住処へ戻って行った。ここでこの日はタイムリミット。この魚のおかげで話に花が咲き、終始笑いの絶えない帰路に着く事となった。
【タックルデータ】
ロッド:エンハンサー53L
ルアー:シュマリ44F 197HGヤマメ、イメル50S 002MHアユⅡ