日本企画ロッドの誕生

本連載では、第4回まででフェンウィックの歴史を創業から順に追ってきた。今回は、1990年以降の、近代の歴史について振り返っていく。

まずは、ブランド史上初めてとなる完全日本企画のロッドとなった、ゴールデンウィング「Jモデル」の発売だ。

1971年から、ティムコはフェンウィックが開発したものを輸入してそのまま販売するだけだったが、Jモデルの発売以降、第一線で活躍する国内プロスタッフの意見を取り入れたモデルを開発するようになる。ここから、日本のフィールド事情に合わせたロッドづくりが本格化していくのである。

1995年には、ティムコが企画開発した「アイアンホーク」が発売。なかでも林圭一さんが監修したクランキンシリーズは、マッドペッパーマグナムとの組み合わせにより、ディープクランキングの新時代を開いたものだった。

HMGグラファイト、ヨシダバージョンG53Y-LTの仕様書。80年代の終わりから、日本独自企画モデルの開発が活発になっていく
新素材、アラミドヴェールの出現

ゴールデンウィングが軽さと感度を全面に押し出したモデルだったとすれば、パワーを重視したモデルが、1998年にデビューした「テクナAV」である。

テクナAVは、新素材であるアラミドヴェール繊維を採用したロッドだった。

98年に登場した新素材、アラミドヴェールは補強材としてグラファイトロッドをさらなる高みに押し上げた

本来、ロッドブランクスはマンドレルという金属の芯にカーボンシートを縦軸、横軸と組み合わせて巻きつけるのが一般的である。しかし、カーボンの上にアラミドのシートを吹き付けると、ねじれと潰れにきわめて強くなり、しなやかでありながら力強い復元力(≒トルク)を持つブランクスとなるのだ。これで、魚を浮かせるのがより速くなり、テクナAVのパワーは「筋肉を纏ったようだ」と評された。なお、アラミドを用いた製法は現在のロッドまで受け継がれることになる。

2000年には、1990年の発売以来、長くフェンウィックのフラッグシップであったゴールデンウィングがフルモデルチェンジ。2代目となる「コンペティションシリーズ」が発売。感度重視のゴールデンウィング、パワー重視のテクナAVという、2大巨頭の時代が続くこととなった。

テクニックとロッド

アラミドを搭載した2代目のロッドとして2003年に登場したのがテクナGPだ。テクナAVのグリップ周りを見直し、より日本人が握りやすいようにと設計されたモデルである。

テクナAV TAV66CMHJ
グリップが卵型のような形をしており、日本人の手では少し握りづらいものだった。これに改良を加えたのが2代目テクナである「テクナGP」だ

そして、日本で生まれた新たなテクニックとのマッチアップという点でエポックメーキングな1本が生まれるのもこのモデルだ。テクナGP64S-ULJ「ミッドストローリングスペシャル」の誕生である。

当時、ミドストの源流となったテクニックが琵琶湖で生まれ、「名古屋釣法」という名前でひそかに注目されており、専用ロッドも名古屋の「ルアーショップおおの」で販売されていたのだが、それをトーナメント用に落とし込んだのが、テクナGPのミドストスペシャルだった。

リールの進化もフェンウィックロッドを語るうえで欠かせない。テクナGPの発売から7年後、ゴールデンウィングのツアーエディションから、追加機種としてベイトフィネスロッドである64CLP+Jが発売される。軽いルアーをバックラッシュすることなくキャストできるベイトフィネス専用リールが誕生し、フェンウィックとしても即座に追従したのである。当時のベイトフィネスで扱う、5g前後のリグをキャストするのに適した1本であった。

ブランクス焼成の新技術、そして現代へ

2013年、テクナシリーズの3代目となる「テクナPMX」が登場。アラミドを採用したブランクスに、「パワーラックス」というレジン素材を使用することで、よりパワフルなロッドをつくることに成功した。

それまでカーボンとアラミドという異なる繊維を密着させる際に使用していたレジン(糊材)は、1本ごとの繊維を完全に密着させることができなかった。しかし、新たに用いられたパワーラックスという素材は、細かい繊維のすき間に浸透させることができ、より素材ごとの密着度が高いブランクス製造を可能にしたのである。

こうして、PMXシリーズはフェンウィック史上もっともパワフルなモデルとして誕生する。今も現役で使用するプロも多く、昨年のオールスターワイルドカードで、センドウタカシさんが4440gのロクマルというスーパービッグをキャッチしたのも、PMXのテキサスリグスペシャル「610CMHJ」だった。しかし……製造方法上どうしてもコストがかさみ、当時7万円代という値段だったため販売に苦戦。結果短命に終わってしまった不遇の名竿でもあった。

そして時代は現代である。2017年、フラッグシップを刷新した「エイシス」が発売。それまでブランクスの素材ごとに分かれていたシリーズを統一し、よりユーザーが選びやすいようなモデルとして生まれ変わる。

2017年発売の「エイシス」シリーズ。それまで同一素材ごとにシリーズ分けしていたものを一新し、機種ごとに素材を使い分けたフェンウィックの新たなフラッグシップである

そしてハイコストパフォーマンスのスタンダードモデルとして「リンクス」が2018年に発売。大ヒットルアー「野良ネズミ」との相性がよい「60SULP+J」などはこちらが選ばれることも多い。両者合わせて60機種以上を誇るラインナップに死角なしと思われたが……フェンウィックが70周年となる今年、新たに4モデルが追加される。アニバーサリーにふさわしく、積み重ねてきた伝統と最先端の技術が融合したロッドになっているという。

ティムコでは70年代の終わりから90年代にかけて、製品紹介やテクニックに関する記事を掲載した『THE TIEMCO GAZETTE』を発刊していた。フライフィッシングがメインだったが写真の1980年8月発行号の特集は「バス・フィッシング」。西山徹氏によるバスの生態解説などが掲載されている
略式年表
ゴールデンウィング発売~リンクスシリーズの発売まで
1990年
軽さと感度を全面に押し出した、「ゴールデンウィング」シリーズの発売。国内ではJBTAが注目されはじめ、プロスタッフの意見を取り入れたジャパンモデル「Jシリーズ」もラインナップされる。
1995年
完全なる日本独自企画としてティムコが開発した「アイアンホーク」シリーズの発売。
1997年
ヘッドオフィスをアイオワ州スピリットレイクに移転。
1998年
新素材、アラミドヴェールを採用した「テクナAV」の発売。
1999年
すべてのロッド生産を中国に移転。
2000年
10年来フラッグシップであったゴールデンウィングがフルモデルチェンジ。「ゴールデンウィング・コンペティション」発売。
ブランド史上初めてとなる廉価版モデル「FVRシリーズ」が日本企画により発売。
2002年
100%グラスロッドである「FVRクランクシャフト」の発売。小島宏氏が開発に携わり、「モノにコンタクトさせて使うクランキンロッド」として登場した。
2003年
アラミドヴェールを搭載した二代目のロッドである「テクナGP」が発売。
2005年
「ゴールデンウィング・ツアーエディション」の発売。
2010年
ベイトフィネス専用ロッド「スーパーテクナ64CLP+J」が発売。
2012年
スピニングのフィネスに再注目した「ウルトラフィネス」ロッドの発売。スピニングのガイド小口径化が進んだモデルであった。
2013年
「テクナPMXシリーズ」発売。ブランクス焼成時に使用するレジンに新素材であるナノアロイ系の「パワーラックス」という素材を採用することで、繊維の密着度が向上。非常にパワフルなブランクスを持つロッドとなった。
フィールド別ラインナップをそろえた「アイアンホーク・フックセッター」が発売。
2014年
フェンウィック創立60周年。ティムコでは限定モデルのロッドだけでなく、ビッグバドやノーネイムクランクなどの限定カラーを発売した。
2017年
フラッグシップを刷新した「エイシスシリーズ」が発売。現在までに35機種が発売されている。
2018年
ハイコストパフォーマンスのスタンダードモデルとして「リンクスシリーズ」を発売。
2024年
創立70周年。ティムコでは70周年記念モデル4機種の発売を予定している。