「来月、野生のゾウを見に行かない?」
そんな一言から僕のネパール撮影は始まった。
2025年5月、僕はネパール東部のジャパと呼ばれる地域へ向かい、野生のゾウが頻繁にやってくるという村へ向かった。結果として滞在中その村にゾウが来ることはなかった。
しかし、その村の暮らしや美味しいカレーなど野生のゾウ以外の魅力にも惹かれた僕は
もう一度ここに来る必要があるとネパールを後にした。
そして2026年2月僕は再びネパールへやってきた。
今回は10日間、ゾウを見るだけでなく、その村の人々の暮らしや文化にももう少し踏み込んでみたいと思っていた。カレーもたくさん食べたかった。
毎日食べていたカレー。とにかく美味しい。
前回の反省から真っ先に準備しようと考えたのは防虫対策だった。 ゾウが現れるのは基本的に日没後から明け方にかけてであり、虫も一斉に動き出すのだ。 2025年の撮影では肌がボコボコになるほど虫にやられ、いつまでも現れることのないゾウを待ち続けた。つらい時間だった。
今回は、しっかりと対策をしていこう。
しかし、蚊取り線香を携帯しながら歩き回るのは現実的ではないし、どうしたものかと考えていると、Foxfireのスコーロンの存在を思い出した。 スコーロンは繊維に防虫機能を持たせた素材で、虫が触れると離れていく仕組みを持っているらしい。
ただ、出発前は正直なところ、それでもやられるだろうと思っていたし、標高が100m前後のジャパはかなり暑いのである。長袖を着ていられるのかも不安であった。
実際に現地で使用してみると接触冷感のおかげか、それほど暑さを感じることはなく、昼も夜もSCアルティメットフーディを着続けていた。
村の人からは「お前、寒いのか?」と何度も聞かれた。半袖で過ごすのが当たり前の気候の中で長袖を着ている僕はかなり不思議に見えたのだと思う。
汗抜けも良いので、風が吹くと木陰で風に吹かれたような感覚を覚えるほどだった。 ちなみに昔、ネパールでは暑さから木陰を奪い合って戦争が起きていたらしく、今でも大事にされている。
このような場所がいくつもあり、みんなよくおしゃべりしている。
またUVカット機能もあるのでネパールの強い日差しの中でも肌を露出せずに行動することができる。
日焼けによる消耗が抑えられ、連日の撮影でも疲れ方が穏やかだったように思う。
どこまでも広がる茶畑。ゾウはお茶の葉を食べないため栽培が広まった。
そして夕方になると茶畑の縁に立ち、「今日はゾウ来るかな?」と通りがかりの村人に聞くと、「ゾウのお腹が空けば来るんじゃないかな」と笑いながら答える。
彼らにとってゾウは特別な存在ではなく、日常の延長にあるのである。
通りがかりのおばちゃん。ヤギを連れて帰るところ。
ヒンドゥー教徒にとってゾウは神様なのだが、この地では害獣の一面も持つ。
夜がくればあとはひたすら待つのだが、虫の羽音がどこからともなくやってくる。
同行していた友人のカメラマンは、昨年同様虫にボコボコにされていた。
しかし、全身スコーロンに身を包んでいる僕は一度フードを外した瞬間に首を1箇所やられたが、それ以外は本当にやられることはなかった。
一緒にゾウを探してくれる村人。あまり目立つことはしてほしくないのだが…
それでも最初は虫の羽音がすると気が散ったが、守られていることを体が理解し始めると日に日に虫を気にする時間が減っていった。これは本当に画期的だと思う。
結果として今回もゾウが狙いの場所を通過することはなかった。
それでも、この土地に流れている時間や、人の営みを前回よりも少しだけ深く見ることができたように思う。
毎朝お寺の掃除をするお婆さん
毎晩ここで祈りを捧げる滞在先のお母さん
48時間続いたヒンドゥー教のお祭
近所の商店の娘ユニカ
今回の撮影の中でスコーロンはただ虫を防ぐ服ではなく、撮影の集中を切らさないための撮影機材の一つになっていた。
ただ待つことや村人との何気ないやりとりに集中できるかどうか。
その違いは写真に静かに現れていたように思う。