待ち合わせの日の朝、屈斜路湖畔に立つ一軒のログハウスを訪ねると、中から黒い毛並みの犬が尻尾を振りながら勢いよく飛び出してきた。國分さんは8年ほど前に中古で購入したこのログハウスの大半をセルフリノベーションし、今は妻と甲斐犬のカイと一緒に暮らしていた。挨拶もそこそこに、この日見て回る予定のロケーションと大まかなプランについて話し合うと、「まずは起点となる屈斜路湖を見に行きましょう」と促され、外に出た。林を抜けて湖面に出ると、中心に向かって厚い氷が少しずつ張り始めていた。
屈斜路湖は外輪山に囲まれた日本最大のカルデラ湖で、全面結氷する湖としては国内最大級と言われている。-20℃以下に冷え込む日が続くと湖は全面結氷し、寒暖差によって全長10kmにわたって氷がせりあがる「御神渡り」という自然現象が見られることもあるのだという。しかし、もう2月中旬になるというのに湖面すべてが凍るにはまだほど遠い状態だった。
「あの一番高い山がこれから行く藻琴山で、標高はぴったり1000mです」と國分さんがストックで指し示す方を見ると、対岸には朝日を浴びて白く輝くなだらかな稜線の山が見えた。
「湖面は120mしか標高がないので、ここから見るとそれなりの高さの山に見えますが、反対側の美幌や網走側から見ると小高い丘にしか見えません。稜線まで上がればカルデラを一望できるだけでなく、目の前には斜里岳、奥には知床連山やオホーツク海まで見渡せます。いろんな斜面を滑れますし、冬でも駐車場から1時間ほどで稜線に上がれる気軽さから、道東のバックカントリーのメッカとされています」
藻琴山は國分さんにとってもホームマウンテン。お客さんを案内することもあれば愛犬のカイと一緒に滑りに行くこともしばしば。「屈斜路湖周辺の自然の魅力はこの山から教わったようなものなので、まるで先生みたいな山なんです」と、國分さんは穏やかな微笑みをたたえる。しかしその表情に翳りが見えた。
「去年も今年も雪がなかなか降らなくて、滑走可能日数が年々減っている現状があります。今シーズンもちゃんと滑れるようになったのはつい最近のことです。道東はただでさえ雪が少ない地域なんだから勘弁してほしいですね」
やれやれと言わんばかりにため息をつくと、雪の減少が他に及ぼす影響についても話を聞かせてくれた。
「僕らカヌーのガイドがひしひしと感じているのは湖の水量が減っていることです。20年前の映像や写真を見ると明らかに水位が下がっている。そして屈斜路湖は釧路川の源流ですから、今度は川の水位にも影響してきます。湖には外輪山から約30もの川が注ぎ込んでいて、出ていくのは釧路川の1本だけなので、春は雪解けで川の水量が最も多くなるはずなのですが、近年は春先から既に川の水位が低い。それに全面結氷しない年も増えていて、これらのことが道東の生態系に今後どう影響を及ぼしていくのか……」