日芸写真学科の恩師が福島の鮫川村というところに仲間と天文台を作った人で、先生との出会いがなければきっと今の自分はなかったと思います。
撮影のテクニックもそうですが、今思えば星の下でただ過ごす時間というものをたっぷり味わわせてもらいましたね。新宿で生まれ育った私にとって、そもそも星空を見る経験がなかったので貴重な体験をたくさんさせてもらえたし、思い出深いものがあります。
先生は星と鉄道と航空機が好きな方でした。先生から言われたんです。『自分がやってきた星空を引き継いでほしい。写真家でも解説員でも、星に携わる仕事に北山さんが就いてくれたらいいな』って。今でもその時のことを鮮明に覚えています。有明のガンセンターで、点滴を打ちながらそう話す先生の姿を。それが遺言でした。
私と同じように先生の遺志を継いで、鉄道と航空機をそれぞれ引き継いだ人がいるんですが、私たちの活動の根幹には、先生のために一生を懸けて恩返ししようという思いがある。それで私は福島に移住して、日中働いては夜に天文台に通う生活を始め、そこからキャリアをスタートさせました。
今では星景に加えて、毎年種子島に通ってロケットの撮影の仕事もしています。転機となったのはフロリダのケネディ宇宙センターで撮ったロケットの打ち上げの撮影でした。
ソニーの人工衛星「EYE」を載せたファルコン9ロケットの打ち上げを、ヘリコプターで16キロも離れたところから1200ミリの望遠レンズで空撮したんです。その1枚のロケットの写真のおかげで、趣味が仕事になりました。
ロケットの打ち上げを直に見るとその音と振動を全身で感じることができます。今まさに宇宙へと旅立とうとしている力強さをひしひしと感じながら、無我夢中でシャッターを切り続ける。これは、静寂の中で撮影する星景写真とは相反するように見えますが、両者には共通していることがあります。
それは『空を見上げ、宇宙に思いを馳せる』ということです。宇宙は科学的で難しそうと思う方もいるかもしれませんが、私にとって宇宙は、ワクワクする気持ちをずっと与えてくれる唯一無二の存在です。