グラス、グラファイト、ボロンを扱ってきたメーカー

上に掲載した写真は、1974年から86年にまでにアメリカで製造されたフェンウィックロッドである。

上から、グラファイトロッドとしても世界最古参の部類に入るHMG。2段目のHMGは3世代目くらいのもので、3段目のイーグルグラファイトは82年以降に製造された1本。イーグルシリーズは廉価版モデルとして、多くのユーザーに愛用された。

そして、最下段のボロンX。81年、フェンウィックロッドのなかで、初めてボロン素材が採用されたロッドである。ベイトロッドの最初のモデルは「XC555」で、開高健もこのロッドを使用していたことで有名だ。

ボロンXは、その名のとおりブランクス素材にボロンを使用している。ボロンはタングステンをベースにした金属繊維で、カーボンよりも硬く、重い素材である。グラスやグラファイトと同じく、これも航空機産業で使われていたものをロッドにも採用した。フェンウィックでは世界初のグラファイトロッドであるHMGシリーズを発売したのと同時期に、既にボロンの研究も始まっていたという。

高い鋭敏性と、優れた耐久性があるという触れ込みで登場したボロンX
国内初のシグネチャーモデル

86年には、ティムコからフェンウィックへのオファーにより、「ボロンX 吉田バージョン」が発売される。リールのフット部を上下のリングで固定する、テネシーグリップタイプのロッドである。日本におけるシグネチャーモデルの元祖となった。ブランクスにフェンウィックとティムコのロゴが並ぶ、珍しい1本となった。

今日におけるフルレングスボロンの是非については、賛否両論あるといった感が否めない。80年代、日本のメーカーからもボロンを使用したロッドが発売され始めたが、素材そのものが高価であることや、軽くて反発力に優れたカーボン素材の研究が進んでいき、徐々に姿を消していった。一方、強いトルクと重厚感を感じさせる特有の感触を好み、今もトップウォータープラッガーのあいだでは愛用するアングラーがいるのも事実である。また、グラファイトを補強する目的でブランクスの一部にボロンを採用する方式は、トラウト用ロッドなどで今もしばしば用いられている。

81年ティムコのカタログより。ボロンXがブランクスの一部分のみにボロンを採用したものではなく、フルレングスボロンであることを強調している。
ボロンXが生まれた80年代のロッドには、蛍光リングをインナーに埋め込んだフジガイドが使用された。
ティムコとフェンウィック

本連載では今回までにフェンウィック創立の54年から80年代までを振り返ってきたが、ロッドブランクスの素材としてグラス、グラファイト、そしてボロンと、あらゆる素材を扱ってきたメーカーであることは、特筆すべき点である。常に新しい素材の研究を進めてきた、フェンウィックの輝かしい功績である。

そして忘れてはならないのが、まだインターネットもない時代、最新の技術やテクニックを日本に伝え続けてきた、ティムコの存在だ。

フェンウィックは創業以来、何度もそのブランドを他メーカーに買収されている。ブランドが大きくなっていく一方で、過去を知る人間はどんどん少なくなっていった。その点ティムコは、71年から一貫して販売権を保持し、任されてきたのだ。今や、ティムコが世界でもっともフェンウィックと長い関係にあると言っても過言でないのである。

84年ティムコのカタログの1ページ目。ボロンの解説が最上段に来ていることからも、当時は最高品質の素材と謳っていたことがうかがえる。
88年には、フェングラスのブランクスをHMGグラファイトで覆う、コンポジット構造の先駆けとなる「Crank Shaft」が発売された。当時のカタログには、クランクベイトを始めとしたトレブルフックのルアーを使うための専用ロッドであることが記載されている。「巻き物専用」という概念も新しいものだった。

さて、本連載は次回から少し趣向を変え、オールド系フェンウィックをこよなく愛する人物たちに登場してもらい、その魅力を語ってもらう。

略式年表
ボロンX吉田バージョンの発売~生産拠点の移転まで
1986年
ティムコが最新のバスフィッシング・テクニックを紹介する会員制月刊誌『Bass Front』を発行。
ティムコからのオファーにより、「Boron X 吉田バージョン」が発売される。
1987年
「World Class」シリーズの発売。
1988年
3月、カスケード社に売却されたあと、8月にアウトドアテクノロジーグループ(O.T.G.)が買収する。
「Crank Shaft」の発売。
1989年
カリフォルニア州ハンティントンビーチに事務所と倉庫を移転。生産拠点はメキシコと台湾へ。