伝えたい物語を探して 奥田 祐也 │ Photrek Down Jacket / Foxfire

FIELD IMPRESSION #004

伝えたい物語を
探して

奥田 祐也

編集者・フォトグラファー

奥田 祐也

1987年福岡県生まれ。出版社で旅雑誌の編集を経て、2023年に独立。アウトドアと豊富な旅経験を活かしてジャンルレスに取材・執筆・撮影を行う。現在は自然豊かな北海道上川郡に生活拠点を持ち、東京や日本各地を行き来しながら、旅するように働く。

フォトレックダウンジャケット_奥田 祐也

INTERVIEW

奥田 祐也

旅雑誌の編集を経て、現在はフリーランスで書籍やwebの編集・執筆・撮影をする奥田祐也。独学で写真を学び、ひょんなことから編集の道に進んでいくまでの少し変わった経歴を振り返りながら、写真との付き合い方がどう変わっていったのか、その変遷をたどる。

奥田 祐也
 

INTERVIEW THEME.01

写真家という生き方に
憧れた学生時代

「いい写真ってなんだろう?」そんなことを考えるようになったのは、初めて個展を開いた2012年くらいだったと思います。その後出版社に拾われて旅雑誌の編集をするようになってからは、ますます写真が持つ「伝わる力」というものを意識するようになりました。編集者は企画を立て、写真家とタッグを組んで誌面や記事をつくっていきますが、カメラの知識や写真への理解があったというのは、編集において少なからず自分の強みだったと思います。なぜなら、僕はもともと写真家になろうと思っていたからです。

写真家という職業に憧れたのは20歳の頃、最初は星野道夫さんの本の影響でした。思えば漠然とした将来への不安を抱えていた当時、カッコいい大人たちが自分と同じ年頃の時にどんなことをしていたのかを知りたくて、いろんな人の自伝エッセイばかりを読んでいたように思います。なかでもアラスカに移り住んで、悠久の自然とそこに息づく動物たち、そして厳しい環境で生きる人々の暮らしを写し撮り、見聞きした記憶を書き綴った星野さんの仕事は僕にとって希望の光でした。

そこから派生するように今まで知らなかった世界が目の前に広がり、自分の環世界が形成されていったように思います。そして、その人にだけ見えている世界を写し撮る写真家は、僕にとって最もカッコいい職業であり生き方でした。

ではどうしたらそんなふうに生きられるだろう。そもそも、人に伝えたいことなんて自分にあるのだろうか。転勤族で地元もなく、自分の根っこという部分にコンプレックスを抱えていた僕は、大学生の頃から頻繁に旅をするようになります。人に会う旅がしたいと、日本全国をヒッチハイクで旅してみたり、野宿をしながら何日も歩いたり……まあ、自分探しの旅と言えばそれまでなのですが、その時代・年代にしかできない旅をしてきました。

この学生時代の旅は、僕に一眼レフカメラの扱い方と少しばかりの「根拠のない自信」を与えてくれました。そうして僕は、両親が敷いてくれたレールからドロップアウトして、写真家を目指すようになります。就活用スーツから作業着に着替えて、高所窓ガラス清掃の仕事と山登りを始めると、毎月稼いだお金でカメラ機材と山道具を少しずつ買い揃えては、自然の写真を撮ることに熱中していきました。

そんなある日、転機が訪れます。偶然にも自分の担当ビルのテナントで、当時憧れていた雑誌の編集長がイベントをしており、食事をご一緒する機会をいただきました。そしてそれから2年が経ったある日、編集長から電話がかかってきて、その出版社で働くことになったのです。

   
奥田 祐也

INTERVIEW THEME.02

自分にとって編集とは何か

出版社で書店営業や新刊PRなどの販促業務を経て広告部に異動すると、興味のあったアウトドアメーカーを中心に関係性を築いていきます。自分には営業が向いているかもしれないと思った矢先、編集長からの「編集も勉強しておいて」という冗談めいた一言によって、突然編集者への道が開けます。

教えてくれる身近な上司もおらず、右も左もわからないまま個人の裁量は大きかったので、自分が雑誌の質を下げるようなことがあってはならないと、プレッシャーに押しつぶされそうな日々が数年は続きました。

ですが、旅雑誌の編集に配属されたおかげで旅が仕事になりました。30歳にして海外経験はまったくなかったのですが、初めての海外取材では-30℃を下回る冬の北極圏へ。その後も年に数回は海外取材に行くようになり、自然の厳しいカナダ北部やアメリカ西海岸、ハワイなど、自然豊かな場所ばかりを訪ねることに。

頭上で渦巻くオーロラ、海を埋め尽くす流氷、巨大氷河やフィヨルドといった自然の神秘と、そこにある人の暮らしを目の当たりにし、どうしたらこの感動をうまく誌面で伝えられるだろうと考える過程で、再び伝えることと向き合うようになります。

編集とは文字通り、情報や材料を集めて編むことです。伝えたいテーマや誌面構成のイメージを膨らませて設計図を描くのが編集者の仕事であり、雑誌の誌面は写真家と二人三脚で作られていきます。旅取材では特にそのことを意識させられます。

何を撮るかはある程度写真家の感性に委ね、そうして集めてもらった旅の断片を今度は編集者が選び取る。撮ることも写真をセレクトすることも書くことも、一連の選択作業こそが雑誌編集という仕事であり、そうした目に見えない積み重ねの先に“伝わる”があるんだと思うようになりました。

伝えるということに意識が向くようになったのは、学生時代に訪れた沖縄でした。鹿児島からフェリーで渡り、半月ほど沖縄本島に滞在しながらヒッチハイクで転々としていました。

その時に乗せてくれたあるおじさんが、国道58号線で米軍基地に両側から挟まれたポイントに差し掛かった時に、こう呟いたんです。「基地のフェンスの忍び返しが両側ともこっちに向いてるだろ。ここを走るといつも、なんだかアメリカに掴まれているような気がしてくるんだ」と。それを聞いて、ショックでした。そのつい数日前に何気なく沖縄の旅行情報誌を眺めていた時のこと、ちょうど車で通った近くにある米軍基地を見渡せるというビューポイントが取り上げられていたんです。別にその情報に悪意があるということではありません。おじさんの言葉を聞いて初めて、自分はただの旅人であり通過者でしかないんだと思い知らされたからです。

そして、一つの物事には良し悪しでは片付けられないあらゆる側面があると、身をもって知りました。では、自分が伝えたい物語はどっちだろう。あの時沖縄で感じたことが、編集という仕事をするうえでの自分の指針になってきたように思います。

 
奥田 祐也

INTERVIEW THEME.03

変わっていくことで伝わるもの

ここ数年、写真との付き合い方が変わってきたように思います。編集者としての経験を積む以前は、いわゆる特別な景色や瞬間を求めて山に登ったり非日常に目を向けてばかりでしたが、今は日常の中にシャッターチャンスを見出すことが多くなったように思います。

以前携わっていた雑誌のコンセプトに「移動することばかりではなく、一カ所にとどまって繰り返す生活もまた一つの旅」というフレーズがあって、僕はこの考えが気に入っていたのですが、写真にも同じことが言えるんじゃないかと思っています。移動すれば景色も目まぐるしく変わっていきます。でも生活の中にも、巡る季節であったり自身の感性であったり、気づかないうちに少しずつ、でも確実に変わっていくものがあります。

奥田 祐也

星野道夫さんの『旅をする木』の中に、「もうひとつの時間」と題されたエッセイがあります。満天の星空の下、「ある人が以前こんなことを言っていたんだ」と星野さんが友人に話を聞かせるところから始まります。その内容はこうです。涙が出そうなほど美しい夕陽や星空を一人で眺めていたとして、その感動を愛する人に伝えるにはどうしたらいいか、星野さんがある人にそう問いかけたら、その人は「自分が変わってゆくことだ」と答えたというもの。写真を撮るでも言葉で伝えるでもなく、一番は自分が変わってゆくことなのだと。

僕は一昨年から仕事も生活環境も変えて、新しい一歩を踏み出したところですが、この星野さんの一節がふと思い出されました。この先の人生、届けたい物語にどれだけ出会えるだろう。そのためにも、自分自身が変わり続けていくことを愉しんでいきたい。

   

WSフォトレックダウンジャケットの使用感

Impression

>WSフォトレックダウンジャケットの使用感

僕は今、東京と北海道・旭川の二拠点生活をしています。大雪山系に抱かれた自然豊かな場所で、自分で古民家をいじりながら暮らしているのですが、真冬は最高気温が連日氷点下という寒さの厳しい地域でもあります。日常的に防寒が必須なのですが、このジャケットは汎用性が高く、着られる時期が長いのがいいですね。撥水性に優れ、大きいフードのおかげで雪の日も安心ですし、袖口のゴム紐の締まり具合も気に入っています。

車社会の北海道生活だと、外作業以外でグローブをはめる機会は実はそんなに多くありません。だから車を降りて通りすがりの雪景色を撮影する時なんかは、窄んだ袖口の中に両手をすっぽり仕舞って指先だけでカメラを操作しています。また、フラップ付きのフロントポケットには35ミリフィルムカメラ(OLYMPUS PEN F)くらいならすっぽり入るのもいいですね。ポケットの位置や構造的にも、レンズの小さいカメラなら入れていても全然気になりません。

PRODUCTS

フォトレックダウンジャケット着用
フォトレックダウンジャケット カーキ

WS Photrek Down Jacket

Khaki

フォトレックダウンジャケット ブラック

WS Photrek Down Jacket

Black

「5 Nature Photographers」

「目を奪われるような美しい風景」や「極地が生む厳しい自然環境」、「動植物の織り成す生命の躍動感」などをカメラに収める写真家たち。彼らが魅了された世界や、撮影のバックストーリーなどを「WSフォトレックダウンジャケット」の使用感と共にお伝えする全5回の特集。

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