「偏食」
目の前にライズしている魚は少なく見積もっても33から35センチはあると思われる。水面直下のライズが多いのだが、時折水面まで口を出し、ついばむ様に捕食したり、激しく追い食いしたりしている。ライズフォームから主食は水面直下に流れてくる動きのない物で、時折水面上の動いている何かを捕食していると言う事が解る。目に見えるハッチはフタバコカゲロウと#30以下のユスリカだった。
さて、何を結ぶか？バクバクとまでは行かないまでもそれなりの頻度でライズを繰り返している。目を凝らして何を捕食しているのかを観察すると、水面上での激しいライズはユスリカのアダルトで、水面直下の方はユスリカのピューパかフタバのスペントと推測される。水面下でも水中が良く見える状況ならば口の開き方でなんとなく予想は付くのだが、流れがあったのでそれは無理だった。水面を流れて行くフタバのダンは勿論、肉眼で見えるものの捕食は見られなかった。
この状況を踏まえて#17のグレーボディーの全沈型スペントパターンからスタートする事にした。というかロッドにはその針がセッティングされていた上に、前回の釣行でのMVPフライ(いや、MVFか）であったし、フタバのスペントの可能性を期待したからだ。それに何と言っても針のサイズが大きいという事が一番の理由だった。#30以下のユスリカに合わせたフライはキャッチできる確率が思いきり下がるからだ。
そして、ライズのタイミングを見て投げるとあっさり無視された。全く見にも来なく前回のMVPがゴミと同じ扱いを受けた。
時間を開けてまた投げるとまた無視された。タイミングや流すレーンはいいと思うのだが、相手にされないようなので同じフライでサイズを落としてみた。気を取り直して投げたが同じ扱いを受ける・・・フライチェンジ・・・出ない・・・チェンジ・・・無視・・・フライは元に戻したりもしながら７回ほど変えてみたが、無視され続けたのだった。しかし、そんな中でも一瞬だけチラ見されたフライがあった。そのフライはTMC212Yの#21のブラックボディーのスペントパターンでユスリカを意識して投げたフライだった。
さて、どうしたものかとフライボックスを眺めると#32のフライも何本か入ってはいるが、ティペットサイズも落とさなければいけないしキャッチできる気もしない・・・と何かないかと見ていると一本のフライに目が止まった。TMC206BL#22に巻かれたユスリカのアダルトパターン。いつ巻いたか解らないくらいのフライだが、今の状況を満たすのはこれくらいではないかという直感めいたものがあった。この時使用していた6Xに付けられるサイズで、キャッチ出来そうなサイズで、食わせられる気がするサイズで、食わせられる気がするパターン・・・。水面下に沈めてしまえば実際のユスリカよりも大きく、かなり偏食傾向にある魚に対してはダメだと思うが、水面に浮かせてか弱いシルエットでごまかせるのではないかと思ったからだ。要はまやかし系のフライと言う事である。
さて、しっかりと結びタイミングを見計らってキャストした結果、２投目でフライに出たのだ。出た瞬間のしてやったり感に何とも言えない満足感はあったものの、絶対にばらしたくない気持ちとギリギリ感いっぱいの緊張感で頭は真っ白。ランディング性能に優れるJストリームN+を使用しているものの、バーブレスの#22なんて初体験でしかも特大アマゴ。腰を低くして走り回る魚をいなすがサイズが大きくなかなか寄らない。やっとのことで寄せてもネットに入らずランディングに失敗して股間を通り抜けて行く・・・必死な思いの末にキャッチした魚は38センチの立派なオスのアマゴだった。パーマークがほとんどない銀毛化したメタボリックな奴が目の前に横たわり充実感あふれる午後となった。
この魚で学んだことは、ここ数年ユスリカの釣りはしていないので、それ系のパターンも忍ばせておかないといけないと言う事だ。そういったフライがあればもう少し楽に釣れたのではないかと思うし、他にもやり様はあったと思う。自分にとっての必殺パターンもこういった状況ではただのゴミにもなるし、フライボックスの充実化を図らなければとも思った。結局二日間で一匹だけの釣果だったが記憶に残る釣行となった。
いつも思う事だが何故大きなフタバを捕食せずにわざわざあんな霞みたいなユスリカを偏食するのか？自分だったらどっちも食べると思うし選ぶならフタバだろうに・・・。ほんとに魚に聞いてみたい。
フック： TMC206BL #22
ハックル： コックハックル（ブルーダン）
ウイング： CDC（ダークダン）
ボディ： TMCスレッド16/0（ブラック）
嶋崎 了
