Fly Fishing記事 | ティムコ

小甲 芳信

Fly Fishingプロスタッフ小甲 芳信 カブちゃんの北の便り「ニンフ編」

2020.11.17

カブちゃんの北の便り「ニンフ編」

今年も残り僅か…冬支度を始める前に今年の釣りを少しだけ振り返ってみたいと思います。

 

ボクが河川内で主にニジマスを狙う場合、基本的にはサイトフィッシングを試みて、その日の水質状況や魚の活性状態によってはブラインドの釣りへと移行していくのが常なのですが、その比率は6(サイト):4(ブラインド)くらいでしょうか。今回は、魚が見つけられない場合はその日の気分で釣りそのものを諦めて温泉へ向かう場合もあるほど通い慣れた川でのエピソードをお話ししたいと思います。

 

河川毎に魚の個性がありますから、すべての川で当てはまることではないことを先にお断りしておきます。

 

まず、サイトフィッシングで見つける魚の中には、ライズしている魚もいれば川底でニンフをついばんでいる魚もいて、様々な捕食行動パターンを取っています。広いプールでエサを探し泳ぎ回っている魚も多くいます。そんな中で最も手強いタイプが、川底にへばり付き、一定の場所や狭い範囲内にしか移動しないような頑固者です。このタイプは、ほとんどの場合水面のフライには反応せずに、水中のボトム付近を流れてくるエサにしか興味を示さないことが多いのです。一筋縄ではいかぬ相手です。

 

そんな魚を見付けた時にボクがセレクトするフライはもちろんニンフなのですが、もちろんコレをすんなりとは食ってくれません。スタンダードなニンフをチラ見するだけだったり、派手でも地味でもアトラクター系には全く興味も示さなかったり…、常に悪戦苦闘を強いられ、苦汁を嘗めさせられてきた相手なのです…。そしてこれまでの数々の苦い経験を、ボクなりに咀嚼して今の釣りに至っています。

 

 

ニンフ・フィッシングの多様性

 

時としてニンフはその対応性の広さから誤解されることが多いように思います。例えば・・・

 

「沈めちゃえば、たいがい食ってくれるでしょ!」

「ニンフ(水中)なら、殆どの場合パターンを選ばないんじゃないの?」

「水中ならば多少ドラグが掛かっても食ってくれるだろう・・・」

 

などなど、誰もが一度は思った事があるのではないでしょうか?また、沈黙する大場所を前に、インジケーターをセットし実績のあるニンフを使って何度アプローチしても魚からの反応が無い場合には「ここには魚が居ない」と、結論付けてしまった場合もあったのではないでしょうか?では、果たしてそこには本当に魚が居なかったのでしょうか?

 

ブラインドでしか釣りをしていなかった頃、ニンフで釣れなかった理由を自分の都合に合わせ結論付けしていましたが、サイトフィッシングをするようになってから、実は驚くほどニンフを選ぶ魚が多いことに気付かされたのです。それ以来、ボクのニンフボックスが2つ3つと増え続け、タイイングも含めてニンフの奥深さに気付き、“迷宮の入り口”を開けてしまったのでした。

 

例えば誰もが知っているニンフの代表格ヘアーズイヤーが万能フライとされているのは周知の事実ですが、それはフライパターンとして様々な水棲昆虫の幼虫などを幅広く模写できるものであって、どんなシチュエーションでも確実に釣れるというワケではありません。また、ヘアーズイヤーやフェザントテール、カディスピューパやユスリカピューパなどのハッチマッチャー的なパターン以外は、アトラクター的な要素があるニンフとして認識される場合もあるかもしれません。

 

シルバーマーチニンフ

 

それではヘアーズイヤーのテールをウェブやマラブーに変えたなら、それはアトラクターに変わってしまうのか?またはフェザントテールにパートリッジをあしらって、ソフトハックルのように仕上げた場合もアトラクターになってしまうのか?更には、逆説的にカディスやユスリカのハッチでは時としてソフトハックルが使われることがありますが、それではソフトハックル単体を見て、特定の虫に対する純然たるハッチマッチャーとして存在しているのか?もっと切り込んで言えば、ヘアーズイヤーをナチュラルドリフトさせた場合と違い、敢えて強弱のドラッグをかけた流し方では、ウエットフライの釣りと表現した方が良いのか?などなど、細かいところを突き詰めれば突き詰めるほど『泥』と『土』の違いのように曖昧になってしまう。ここら辺が、ニンフフィッシングの奥深さ、まさに“迷宮”なのだと思うのです。

※ハッチしている最中やシーズン中に、ハッチマッチャーを意識しての様々なニンフパターンがとても効果的なことは、これまで島崎憲司郎さんの『水棲昆虫アルバム』や、黒石真宏さんの『忍野ノート・サイトフィシングの戦術』、佐藤成史さんの『ニンフフィシングタクティクス』などで幅広く紹介されています。

 

また、ニンフフィッシングにおいて、ついついフライパターンだけに気を取られがちになりますが、タナを取れているか?も重要なファクターの1つ。特に大型の番長サイズのニジマスにもなれば、例え水中であってもよほど御眼鏡にかなったモノ(エサの種類など)でなければワザワザ浮き上がって補食することは少なく、おそらくその理由は、効率性を最優先させた捕食形態を取っているからではないでしょうか。

 

そしてもう一つ、とても重要なことが摂取カロリーの問題です。通常では見られないイレギュラーなエサである落ち鮎やドジョウのような小魚などは、敢えて自身の危険を犯してまでも補食することで多くのエネルギーを得ることを本能的に、またこれまでの経験則から知っているのでしょう。しかしその一方では、恐ろしく狡猾なヤツなどは、補食スイッチが水面付近の流下や小魚だけとは限らなくて、ある特定のトリガーに適うエサだけを探して、一定のタナをグルグル回っていたりもします。そして、一体何が目の前の魚にとって口を使わせる『トリガー』となるのかは、対峙したその瞬間でなければ分からないし、また、そのトリガーとは刻一刻と変化する場合も多いのです。

 

なんだか『答えのない問題集』を投げかけてしまったようで申しわけないのですが、まだまだ解らないこと知らないことだらけのニンフフィッシング。しかし、それぞれの答えを探し出す時間こそがニンフフィッシングの楽しさでもあり醍醐味なのではないのかと思っています。

 

 

往年のフライをアレンジ、アダムス・ニンフとシルバーマーチ・ニンフ

 

少し話しは逸れてしまいますが、ドライフライにおいて、最初に結ぶパイロットフライでは様々なフライが使われています。私は、ライズもなくブラインドで釣り上がる場合に結ぶパイロットフライは、夕刻にしか出現しない水棲昆虫よりも、5月から11月まで1日中様々なサイズが流下するテレストリアルの方がより効果的であり、流下の頻度を考えれば、とても合理的なのではないか?と考えています。

 

ではニンフの場合はどうでしょう?仮にパイロットフライはテレストリアルが妥当だとすると、ニンフの場合は何が良いのか?水中の流下物は、種を問わず24時間オールシーズン常に何かしらの物が流下しています。北海道を代表する大河川の十勝川や天塩川などでは、上流と中・下流域ではエサとなる対象の種類も生息環境も大きく変わるのですが、一般的なニンフフィシングで遊べる河川規模である場合、やはりヘアーズイヤーのような水生昆虫の幼虫を広くカバーできるパターンに軍配が上がると思います。そこに、動くマテリアルを加えたりなどの存在感を際立たせる要素を付け足すことで魚からの反応をより得られるようにする手法を用いたパターンが多いのではないでしょうか?

 

そのようなパイロット的な意味合いでボクがよく使用しているのが『アダムスニンフ(偉大なる往年のドライフライを勝手にニンフにアレンジしちゃいました♪)』です。

 

アダムス・ニンフ

 

このアダムス・ニンフなどは、そのシルエットと色合いから、雑多な水棲昆虫を表現しつつ、イマージング状態をもカバーしていると考えるのは誇大解釈なのかもしれないですが、大きく的を外しているとも言えないと思うのです。

 

水中に入ってしまったボディのアダムスカラーは黒っぽくも見えますが、ウイングのグリズリーカラーがアトラクターっぽくもありナチュラルっぽくも見えるので、トータル的に水中を流れるアダルトをもカバーしてくれているのではないのか?と、大変都合の良い勝手な解釈をしたうえでの選択なのですが…。

 

アダムスニンフ

 

一方、少し目先を変えて、自然界にはない金属的な光に反応させる『シルバーマーチブラウン・ニンフ(言わずもがな、絶大な釣果をもたらすウエットフライの代名詞をニンフにしちゃいました♪)』は、濁りがある場合や暗くなってからの出番が多いニンフ故に、リアクションで食わせるアトラクターの部類に入ると思いますが、もしかしたら岸際に群れるウグイなどの稚魚のイミテーションになり得るのかもしれないと、釣り人特有の“楽観的視点”で使用しています。

 

シルバーマチ・ニンフ-(1)

 

ともあれ、この対極にあるフライを双方ニンフとして使用していますが、両者は遊び心から生まれたフライということだけではなく、これまでの実績からそれなりの実力も備えているということを付け加えておきたいニンフです。また、このフライを巻いてみようと思って頂けた方へ、フックは断然TMC2302シリーズをオススメ致します。なぜなら2302シリーズは、緩やかなカーブドシャンクが、ボディとウイングの間に絶妙な角度の隙間を生んでくれるからです。

tmc2302

 

 

大型化したニジマスが好むエサとは

 

さてさて、これまでニンフについて書いてきましたが、実は番長クラスは時として虫を食ってないこともあります。これまでも見付けた番長クラスへ、そのシーズン中最良と思える20種以上の様々なニンフを試しましたが、顔の真横5cmを流れるケースドカディス#14でさえ、まるで視界に入っていないかのように反応せず、ついにはニンフの持ち駒を失ってしまってから、やぶれかぶれ的に試したカジカのような小さなサイズのゾンカーを入れた途端、フォール中に飛び付いてくるという経験もありました。やはり前述した、“捕食動作と引き換えに得られる高カロリーの法則”なのでしょうか。これまでのニンフに対する塩対応とは打って変わったように熱烈歓迎な感じでアタックしてきたのです。

 

カジカゾンカーで釣れた個体

 

使い方は、リトリーブよりもインジケーターを使った縦のスイムアップ&フォールか、通常のドリフトの方がアタックに対して確実なフッキングに繋がるような気がします。(魚の位置を確認できる場合、この手法の方が断然攻めやすいのもあります)。しかし、このゾンカー&インジケーターでは、もはやニンフの範疇を越えてしまった感が全面に出た釣りなのですが、これでしか食わない相手なのだから、番長狙いの一つの策として引き出しの一つとして持っておいても良いのではないでしょうか。なにせ、大規模河川の中・下流では虫の種類は減る一方で、小魚に対する捕食依存度が増える傾向にあるのですから。

 

番長の食い物

 

蛇足ですが、友人から聞いた話や最近読んだ本(長岡寛著 つり人社 『釣りエサのひみつ』)などにも書かれていることで「鮭の死骸が朽ち果て、そこから流れ落ちる肉塊?肉片?がニジマス(渓流魚)の好物である」とのこと。ボクにとってもこれは意外なお話で、ニジマスがスカベンジャー(腐肉食動物)の一面を持っていたとは驚きました。秋サケの遡上シーズン中などは、もしたらサーモンピンクのMSCニンフなどが効果的なのかもしれないですよね。おそらくは、そんな肉塊を食べる個体はデカイに決まってるでしょうから、チャンスがあれば色々と試してみようかと思います。

 

またそこに何か面白いドラマが生まれたら、皆様へご報告したいと思います。

 


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