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小甲 芳信

Fly Fishingプロスタッフ小甲 芳信 カブちゃんの北の便り「ようやく出会えた憧れのハイパーランナー」

2022.08.30

カブちゃんの北の便り「ようやく出会えた憧れのハイパーランナー」

ご無沙汰しております、北海道の小甲です。ボクは最近、増水とアブのダブルパンチをくらった川にはきっぱりと見切りをつけ、地磯やサーフで狙うショアブリや友人の船に乗せて頂いてのオフショアでのマグロやシイラに狙いを変えていました。

 

92センチメスの顔

 

本州ではシイラという魚はわりとメジャーな存在の魚だと聞きますが、寒冷地の北海道では狙うタイミングが限られることや、パヤオ・散水機・チャミングなども無いことから、なかなかメジャーな存在とは言い難い魚ではあります。そして、そんな狙いにくい魚に限ってボクは強く惹かれてしまう癖があり、狙い始めてからこの手にするまでに、本当に多くの時間を費やしました。これまでの人生で、釣りに至るまでのプロセスからその魚体を手にするまでに、こんなにも時間が掛かった魚は他にはありませんでした。

 

― 初めてシイラを意識した時 ―

 

事の起こりは25年ぐらい前だったでしょうか?故西山徹さんの著書で取り上げられていたシイラの記事で、細かい所は憶えていないけれど『#8以上のロッドで、フライは白いゾンカーでも十分釣れる』と言うような内容が書かれていたのを憶えています。また、昔から函館の魚市場では、夏になると数多くの地物のシイラが入荷していたのを家業の手伝いの傍らでいつも見ていましたから、当時のボクにとっては未だ見ぬ50オーバーのニジマスよりも遥かに身近に感じていました。

 

毎日のように目の当たりにする1メートルを越える魚体に憧れる気持ちは増すばかり。スルメイカを出荷してくる漁師からも、

「ヒーラだぢにがって、イガもなも持ってがれでワヤよー!」
 (注翻訳:「操業中にシイラが群れでやって来て、仕掛けに食い付いたイカに喰らいつき持って行かれてしまって困るのサ!)」

と、思わずヨダレが出るほどのお話しを伺う日々。

 

だがしかし、当時の港町函館には多くの釣り船があったのでしょうけれど、わざわざイカ釣りの邪魔をしてくるシイラを狙いに行くなんて酔狂な釣り人は誰も居ないし、近所の八百屋のおっちゃんが亡くなってからというもの、ボクを乗せてくれる船乗りの知り合いもいなことで、半ば諦めかけていたターゲットでもありました。

 

夏のマリーナ積乱雲

 

そんな折、友人の知り合いがイカ釣りを楽しんでいると「シーアンカー(パラシュートアンカー)にシイラがまとわりついていた」と教えてくれたことで友人と共に必死に拝み倒し、いよいよシイラを目指して出船することに。

 

ポイント到着後に、船頭曰く「黙ってイガ釣ってれば、ヒーラだっかナンボでも寄って来るすけ、まんずイガば釣ってれ(注翻訳:初めにイカを釣っていれば、そのうちにたくさんのシイラが寄って来るはずだから、まずはイカ釣りをしよう)」と言われ、何やらゴツイ電動リールと竿一式を持たされる羽目に・・・

 

しかし、結論から言うとなかなかシイラの回遊に出会うタイミングは驚くほど少なく、くる日もくる日もフライロッドを握ることもなく、日がな1日イカ釣りで終わることに・・・まだまだ20代と若かった当時のボクは「こんなにも確率の悪い釣りなんかやってられるかっ!」とキッパリ諦めてしまったのです。

 

それから20年近くの時間が流れ、いつしかブリを追い求めて出船するようになった2013年、なんと同船したルアーの友人が見事なシイラを掛けたのです。太い潮目に投げ入れたルアーに喰らい付いたそのシイラを追って、4~5匹のシイラが付いてきました。しかも、それら全部がメータークラス!!ボクも慌ててフライを投げ入れたのですが、2~3回ほど興味を示し追尾してくるもフライを見切り、食わせるまでには至らず。ここで二十数年前に燃えていた情熱に再び火が着き、「アレ釣りてぇー!」と、咄嗟に叫んだのを憶えています。

 

何よりも強く印象に残ったのは、フライのスグ後ろを追尾してきたのに、リトリーブ中のラインを持ち変えた瞬間フライが僅かに減速し、マテリアルがフワリと広がった瞬間、シイラは興味を失い泳ぎ去って行ってしまったことでした。あのどうにもならない敗北感。何を言っても、何をやっても後の祭りでした。

 

そんな経験を乗り越えてきた今、近年夏場の海水温の上昇に伴い津軽海峡では多数のシイラを目撃したり、マグロ釣りの外道として釣れるお話を多く伺うようになり、満を持してのアプローチでした。

 

― ミラクルがいくつも重なった末の一匹 ―

 

普段からお世話になっている、ボートキャプテンの友人と連れ立って、この日も津軽海峡でのタイラバゲームの釣りをメインに、チャンスが訪れたらシイを・・・と、ほくそ笑むボクでしたが、いきなり根魚の立派なマゾイ(キツネメバル)が釣れてきたことで「コレ、今時期はメッチャ高いんだよね!」と、ニコニコしながらフライロッドを放っぽり出して、ガチの根魚狙いに没頭していました。商売柄、「今このサイズなら〇〇円、これなら〇〇円!」と、少々ゲスな考えも浮かんできます(笑)

 

そんな折、遥か遠くではマグロが跳ねていましたが、今は高級魚との戯れの時間。竿先の僅かなアタリを逃すまいと集中していると、視界の端に大きな物体が入ってきました。よく見ると漁業で使われていたのでしょう、ドラム缶ぐらいの大きな浮きが先日のシケで飛ばされたのか、潮目を漂いながらコチラに向かってきます。

 

海峡の流木

 

高級魚に後ろ髪を引かれつつも、ボートキャプテンに「アレ、ちょっと撃ってもイイ?」と、さりげなく催促すると快くボートを寄せてくれ、絶妙の位置にポジショニングしてくれたボート上からダメ元でフライを投じました。しかし結果はやはりダメ。浮遊物に着くはずのシイラはお留守で、代わりに20cmに満たないぐらいのブリの幼魚(函館ではフクラギと呼ぶ)数匹が、必死にフライをチェイス。フライとさほど変わらない大きさの魚にいささか苦笑しつつ、タイラバゲームに戻ろうとした時でした。

 

ここで一つ目のミラクルが・・・

 

ボートキャプテンがたった一度だけ、遠くで僅かに見えたシイラらしき?魚体が跳ねているのを確認。その奇跡的な確率の発見に、お互いに半信半疑のまま踵を返してすぐさま急行。だがそこは、海峡名物とも言える幅が凡そ300メートル以上はあろうかという巨大な潮目の真っ只中。あちこちで海面が盛り上がったり渦を巻いていたりと、水の動きが激しい変化の中で、果たして本当にシイラがいたのだろうか?と、半信半疑でとりあえずフライを投じてみました。

 

海アメを狙うのとは勝手が違って、同じ海でもブラインドで投げ入れるにはあまりにも心もとない状況。数十キロに渡って見渡せば、唯一視界に入る生命体はカモメぐらい。広大な海峡のど真ん中で、果たしてちっぽけなボクのフライを咥えてくれる相手がいるのかどうか?心の中には不安しかありませんでした。

 

しかし、ここで二つ目のミラクル。

 

しばらくキャストを繰り返した後、ちょっとだけダメダメムードが漂い始めたその時でした。突然、ボクのフライラインの先端方向でドデカイ海面の盛り上がりが湧き上がったのです!

「な,何だアレ?!」そう思った瞬間のことでした。

「ズーン・・・」と、竿を握る両腕ごと引っ張られる重苦しい魚のアタリ!

かつて経験したことのない衝撃のアタリ!

「・・・うっわ!!」

両腕を突き出すような姿勢にさせられて、一瞬これが魚のアタリだなんてにわかには信じられなかったのですが、一呼吸整えて竿とラインを渾身の力で引っ張り返してのフッキング。なのに、なぜなのか針に掛かることがなく「ズゴッ・・・・」っとズル抜けてきたボクのフライ。「あっれー?」っと、急いでフライを回収に入ると、その後ろを追い掛けてくる黒い砲弾が・・・・な、なんとその正体はクロマグロ!!大きさで言ったら通称ゴン太といわれる小型のモノのでしたが、それが足元まで来て潜っていくのです。

 

それを機に、今度は立派なサイズのクロマグロたちが何匹も船の下を泳ぎ去っていくではないですか!もうその迫力に目をひん剥いて眺めるだけ。時間にしたら僅か1分かそこらだったのでしょうけれど、本当に驚きでした。この時は、リリース前提であってもクロマグロを釣ることはできない捕獲規制が掛かっている最中でしたので、針掛りしなかったのは幸いだったのかもしれません。

 

そしてその後、興奮冷めやらぬボクとキャプテンとでマグロの話していた時のことです。

「あっ!」

「カブちゃんシイラだ!!」

と、叫ぶキャプテンの視線の先には、ボートから直ぐのところを数匹のエメラルドグリーンが通過していきます。

 

三つ目のミラクルです。こんなにも決定的なチャンスが次々と訪れることが、にわかには信じがたかったのですが、とにもかくにも目の前のエメラルドグリーンへ夢中でフライを打ち込みました。群れの中には1メートルを優に超える魚体も見えていて、ボクの心拍数は跳ね上がりっぱなし。何匹かはフライを追尾するものの、なかなか咥えてはくれません。

 

そこで、強めのプレゼンテーションで、「ビチャッ!」っと落としたフライを間髪入れずに長いストロークで引き波を立ててやると、これが功を奏したのか群れの中の一匹がフライを咥えました。ものすごい衝撃を竿から受け取ったボクは、やはり渾身の力でラインを引き戻しました。それから何が起こったのか…すっ飛んでいくライン、逆転するリール…。ラインをホールドしていた左手の人差し指を火傷したことまでは憶えているのですが、そのあとは無我夢中でよく憶えていないんです。

 

火傷の痕

 

そして、最後の最後にもう一つだけミラクルがありました。何度もラインを引き出され、自慢の剛竿11番9ftオービス・ヘリオス3が「こんなにも曲がるものなのか…」と呆れ顔で驚かされていた時でした。掛かったシイラが船の反対側に潜り込み、走る角度を急旋回したときに「カクン」と、僅か1秒にも満たない時間でしたがテンションが抜けたのです。

 

それからが大変でした。そう、皆様もお分かりのお通り、口からフックが外れてしまい、スレ掛かりで胸ヒレの後ろ側に再び刺さったのです。通常であればバレてしまって魚ともオサラバだったのですが、何とかスレ掛かりで強制終了はまぬがれたのです。四苦八苦しながらも船上に上げた魚体は、頭の先からシッポの付け根の部分までで92cm、ペンペンではない立派なメスのシイラでした。

 

シイラの背びれ

 

ボクは、最後は魚が元気なままキチンとリリースができて、泳ぎ去る姿を確認できて初めて全てが完結するという、もう本当に面倒クサイ釣りバカ野郎です。なのでこの日、大海原へ帰るシイラを見送ったことでようやく一つのちっぽけな夢がかなったのを実感しました。

 

ところで、この写真をご覧になって下さった方々にはもうお分かりだと思いますが、こんなに強い日差しの中で、つい海上で受ける風の気持ち良さにTシャツ1枚になってしまい、そのまま釣りに没頭するあまり、帰宅後の日焼けがとんでもないことになってしまいました。ロッドを携えた画像のように、通常夏の強い紫外線対策は今や必須項目となっていて、日焼けが酷い時には部分的にではありますが、焼けた後がケロイド状に悪化してしまうこともあるのです。

 

UVカットフル装備

 

また、男性女性問わず、潜在的にそのような紫外線に対しては肌が弱い方も多くいらっしゃると聞きます。ですので、帰宅後のボクのように、お風呂に入るやいなや悲鳴を上げつつ“気合と根性”で乗り切ることのないよう、キチンとした対策は取らなければなりません。寒冷地の北海道とは言え、近年の夏の日差しはなかなかに強烈なモノがあり、日焼け止めのクリームだけでは凌げないほどの紫外線量となってきました。

 

そうなると、やはり長袖のシャツやグローブなど、素肌を隠す為に必要なウェアが必須アイテムとなってきます。但し、オフショアではその釣り場の特性上、求められるのは動きやすさだけに留まらず、汗や波しぶきなどの濡れた状態から直ぐさま水分を放出する速乾性がとても重要になってきます。また、冬場のウェアと違い、生地の中に体温を保持することなく、常に放出させて乾いた外気や風をストレス無く通してくれる涼しさも、着心地の軽さとなって表れてきます。

 

そんなシチュエーションにピッタリなのが、薄い生地で通気性が良く、着ていても不快感を覚えないSCフーディシリーズです。やはりフードがあると、首周りから顔に掛けての日焼け予防になりますし、被ったり脱いだりが容易いなことも有利な点の1つではないでしょうか。また、コレはボクの個人的な意見ですが、フーディで竿をふっている姿は、どこか本場のキーウエストなどでソルトフライを楽しんでいる彼らのようで、ちょっぴりカッコイイと思うのです!

 

UVプロテクトアームカバー

 

ただ、やはり薄手のTシャツ1枚の着心地と軽さを求める方々も多く、そんな方々にオススメなのは、アームカバーです。これは本当に優れもので、折り畳めば手拭いほどもカサ張らないし、脱着も容易。そして何よりも、Tシャツの袖の部分から入り込む風を感じながらも、腕は紫外線から守れるのがとっても涼しくて良いですね!もちろん、熱中症対策で、小まめな飲料水の摂取も忘れずに!です。

 

この日、ようやくずっとずっと昔から憧れていた魚との対面を果たせ、悲願とも呼べる釣果に心から感謝すると共に、常に絶妙な位置取りでサポートしてくれるボートキャプテンにもこの場を借りて深く感謝致します!函館の魚市場には、1メーター30センチを越える立派なオスのシイラなども普通に入荷してきますから、次の目標は、少し欲張ってメーターオーバーのオスを捕りたいものです。

 

さてさて、これからの北海道では、海も川もそれぞれで激アツなシーンがアチラコチラで始まります。秋風を感じ始める9月には、体力を回復しつつあるニジマスや、移動を始めるアメマスなどの釣果が聞こえてきますし、一方の海では、相変わらずの良質なコンディションをキープしているシイラにマグロなどもみられます。また、忘れてはいけないのが、ショアから狙う筋骨隆々となっている戻りブリもチラホラ聞こえてくる頃でしょう。そんな季節の移ろいの中で、また何かありましたらお便りさせて頂きます。

 

最後に、北海道でも狙える確率がグンと増えてきたシイラですが、最近では知床近辺でもシイラが確認されているぐらい、その回遊範囲は広がっています。そして何よりも、あのトルクフルなハイパーダッシュを経験しない手はないですよね!北海道内でも、各地のマリーナでは遊漁船が運行されていて、SNSやホームページなどを開設されている船もあり、ご興味のある方は一度、問い合わせてみてはいかがでしょうか?

 

北海道では少しハードルが高いのかもしれませんが、ぜひその一歩を踏み出して、新たな境地で楽しまれて下さい!ボクたちはソルトジャンキーになったアナタを、海の上でお待ちしています!

 


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