フライフロータントの選び方。毛ばり釣り入門

フライフィッシング入門

アドバンスト

STEP 13「フライフロータントの使い分け」

フライフロータントの役割

フロータントが必要な理由
フロータントが必要な理由

ドライフライは軽く水に浮く構造にはなっていますが、たいていは使っているうちに沈むようになってしまいます。マテリアル自体が水を吸ってしまう場合もあれば、細かい繊維の間に水を保持してしまって沈む場合があります。浮きやすい構造で繊維自体が水を吸収しないマテリアルを使用したフライであっても、例えばボディのダビングがしっかりと出来ていないと沈みやすいフライとなってしまうということなども起こり得ます。

ドライフライにフロータント処理することで撥水効果が生まれてより長く浮かせる事が出来ます。原理的には処理された撥水効果が続く限り浮き続けますが、レインウェアなどに処理する防水スプレーなどと同様に、フロータントが落ちてくれば効果が薄れフライが濡れて沈んでしまいます。

フロータント処理のタイミング
フロータント処理のタイミング

一度濡れたフライはフライウォッシュ・スプレーやフライドライなどを使用して水気を吸い取り、乾かしてからまたフロータント処理してください。濡れたまま処理しても効果が出ないのでご注意ください。どんなフロータントでも処理するタイミングは軽く濡れた時点です。魚を釣った後は仕方ありませんが、一度びっしょりと塗れたフライを復活させるには手間が掛かります。軽く濡れた状態であれば簡単に復活させることが出来、釣りのテンポも快適になるでしょう。スクールなどでは「濡れる前に乾かすくらいで丁度良いです」とご説明するようにしています。

また、一口にフロータントといっても様々なタイプがあり、それぞれに使い方や特性があります。

フライフロータントの種類と特性を知る

パウダータイプ
パウダータイプのフロータント

細かい粒子の撥水パウダーを利用してフライを浮かせるタイプのフロータントです。撥水力はフロータントの中で1番高いですが、持続性はあまり良くないという特徴があります。



ドライシェイク
ドライシェイク乾いている状態のドライフライを容器に直接入れて振ることによりフライ全体に撥水パウダーが施されます。インパクト粒子により撥水パウダーをフライの細部まで施す事が出来、ぽっかり浮かせたいパターンには効果的です。処理後は少し揉んだ後、余分に付いている撥水パウダーを吹き飛ばしてから釣りを開始してください。TMCエアロドライインディケーターなどのヤーンタイプのインディケーターなどにも有効です。また、キャップの裏側のスポンジはフライのウイングだけに付けたい時などに使用します。裏技としてそれほど濡れていないCDCなどを擦り付けると見事に復活させることが出来ます。撥水パウダーによりフライが白くなりますが、避けたい場合はドライシェイク・ダンをご使用ください。
ドライシェイク・ブラシ
ドライシェイク・ブラシ 撥水パウダーをブラシにより付けたい部分だけに付けられるスポットドレッシングタイプです。インディケーターやウィングだけを浮かしボディ部を沈めたいフライパターンなどに使用します。春先の偏食している魚や夏場の渓流でもプールで浮いているセレクティブな魚にも有効です。硬めのブラシなのでCDCなどをほぐすのにも便利です。
パワー・ドライヤー
パワー・ドライヤー 乾燥とフロータント処理を同時に出来ます。びっしょりと濡れてしまったフライはフライドライなどで水気を取り除いた後に使用しますが、軽く濡れた状態であればそのまま使用してください。硬めのブラシでフライをとかしながらフライを乾かします。同時に撥水パウダーも処理できフロータントとしても使用できます。どちらかというと繊細なフライパターンよりもブッシーでボリュームのあるハックルパターンに向いています。繊細なパターンにはドライシェイク・ブラシをお勧めします。
リキッドタイプ
リキッドタイプのフロータント

リキッドタイプは主に速乾性の溶剤と撥水性の高い主剤から出来ている液体タイプのフロータントです。容器の中にフライをドブ漬けしてフライ全体を浸します。取り出したフライを息で吹き飛ばしたり、フォルスキャストにより乾かすとフライ全体に撥水性の高い主剤だけが残りフロータント処理が出来ます。注意点は水分や油などの汚れが残っているフライをドブ漬けするとフロータント自体がだんだんと汚れて薄まっていき、見た目には解りませんが効果が薄れていきます。水面に微量な油などが流れているフィールドなどで使用したフライなどは汚れているのでフライウォッシュスプレーなどでしっかりと汚れを除去してから再度ドブ着けすることをお勧めします。水分や油などの汚れでフロータント自体の効果が薄れてきたと感じたら交換時です。



ドライシェイク・リキッド
ドライシェイク・リキッドドライシェイク・リキッドは速乾性の溶剤にドライシェイクなどで使用されている撥水パウダーが溶かしてあり、ドブ漬け乾燥後にフライにパウダーが付着するタイプのリキッドタイプとパウダータイプのいいとこ取りのフロータントです。ドライシェイクに比べると付着性がいい為に浮力の持続性が上がります。但しここ一発の浮力はドライシェイクに分があるでしょう。
ドライディップ・スーパー
ドライディップ・スーパー 液体フロータントの決定版のドライディップ・スーパーは長年に渡り愛され続けているベストセラーです。超撥水フッ素樹脂と持続性を高めるシリコンオイルと溶剤を最良の配合率でブレンドした超強力なリキッドタイプのフロータントです。多くの方に支持されている理由はフロータントに求められる浮力、持続性、揮発性、使い勝手、フライパターンを選ばない事などのバランスが高次元で成立されているからでしょう。フロータントはただ浮けばいいというものではなく、良い加減の浮き方と持続性などのバランスが重要です。キャップも落ちないキャップ脱落防止リングが付いており落として無くすこともありません。基本に忠実なバランスの良い高性能リキッドタイプのフロータントです。
ジェルタイプ
ジェルタイプのフロータント

ジェルタイプのフロータントは溶剤が入っていない為にコンパクトで持ち運びにも便利で世の中で最も種類が多いフロータントでしょう。歴史的にも古く昔から多くのメーカーが販売して来ました。キャップを開けて少量指に取りフライに満遍なく擦り込んで使用します。浮力はパウダータイプに比べれば劣りますが、持続性は一番良いフロータントです。また、高く浮かせたくなく水面に絡まるように浮かせたいときにはこのジェルタイプがお勧めです。



ドライマジック
ドライマジック撥水性の高い高級シリコンを使用した高性能なジェルタイプのフロータントです。特徴は指のべとつきが少なくサラっとしている割には浮力も持続性も高く夏場の暑い時期にも変性しにくくタレも少ないフロータントです。また、どんなフライにも使用できる対応力の高さも優れている点でしょう。CDCなどの繊細なマテリアルにも対応できるジェルタイプの決定番的なフロータントです。
ドライジェル
ドライジェル 発売以来支持され続けているフロータントです。性能的には特筆するものはありませんが、リーズナブルで冬季の管釣りシーズンなどでも支持されています。管理釣り場でヤーンタイプのインディケーターやリーダーにも使用されています。ゆるめのシリコンですのでフライやヤーンインディケーターなどに塗りやすく、夏場の暑い時にも漏れが少なく使い勝手が良いフロータントです。
アンプカ・バグフロート
アンプカ・バグフロート 粘土が高いシリコンで出来ているバスバグ用に作られたフロータントです。ジェルタイプには属しますが、硬く持続力が長いのが特徴です。ディアヘアのスピンボディなどに塗りこんだり、ハックルを密に巻いたパターンには有効ですが、夏場の暑い時期にもほとんどタレが無い為に使い勝手が良いでしょう。容器もピンオンリールなどにもぶら下げやすい形状です。
ガーキ・ギンク
ガーキ・ギンク ジェルタイプの決定番的なロングセラーなフロータントです。昔から愛され続けている安定感は特筆ものです。フライの他にもリーダーやティペットにも塗れるドライフライの必需品です。
スプレータイプ
スプレータイプのフロータント

スプレータイプのフロータントはなんと言っても使い勝手が良いことが最大のパフォーマンスでしょう。蓋を開けたり閉めたり筆で塗ったり手が汚れたり・・・と全ての面倒くささから開放されます。難点としてはかさばる事と消費量が激しい事ですが、使い慣れると元には戻れなくなります。



ドライシェイク・スプレー
ドライシェイク・スプレードライシェイクの利点をスプレータイプにした超撥水タイプのフロータントです。ドライシェイクの撥水パウダーを効率良くフライに付着させる為に最適な成分の配合調整がされています。また、撥水パウダーの付着性を上げる工夫もされており、撥水効果の持続性を高めています。速乾性が良いので付けたい部分以外を指で覆うとスポットドレッシングの様な部分付けも可能です。上級者の方などシーズン通してこれしか使わないという方もい多いと聞きます。手軽に高浮力が得られ、使い勝手が良いので一度使うと手放せなくなるのがドライシェイク・スプレーです。短所としてティペットに付着してしまうと水分が無くなり切れやすくなりますのでご注意ください。また手にも掛かってしまうので乾燥肌の方はハンドクリームなどの併用をお勧めします。
ドライディップ・スーパースプレー
ドライディップ・スーパースプレー ドライディップ・スーパーのスプレータイプです。フッ素とシリコンオイルで撥水性と持続性を高い次元で実現しています。フロータントとして高性能なドライディップ・スーパーを手軽に使えるようにしたのが一番の特徴です。スプレータイプは多少かさばるものの、手軽さというパフォーマンスに優れており、釣りのテンポも良く釣果も上がることでしょう。また、ドライシェイクスプレーの様に白くならないのでシビアな状況では真価を発揮します。

フライフロータントの落とし穴

釣り人の都合
釣り人の都合

例えば、フロータントを駆使してポッカリと水面に浮いたフライで釣りをすることは、「見えやすい」「ドラグが掛かりにくい」「沈みにくい」など、釣人側が有利になるために行います。しかし、もしかしたらその状況下では半分沈んでいたり水面下に張り付いていたフライの方が良かったりすることも多々あります。

また、フラットな水面のシビアな状況下ではフロータント処理したフライは魚に違和感を与えてしまいスプーク(※魚を驚かせてしまうこと)してしまうこともあるのです。フライフィッシングはそんな目的に合わせたドライフライの浮かせ方を考慮してタイイングしたり、フロータントを駆使したりするのも楽しい要素です。そして、そのフライを思い通りに浮かせてドリフト出来て魚が釣れた時は感動さえ味わうことが出来ます。最終的に魚の視点から捉えた方が釣果に繋がり、実釣においてはひとつの重要なファクターでしょう。

上級者のテクニック
上級者のテクニック

ドライフライが沈んでしまう原因は色々ありますが渓流の場合においては「ドラグ」によるものが1番でしょう。このドラグが掛かる原因は、フライは自由に流下しているのではなく、糸が結ばれているからです。糸により引っ張られたフライが流れに逆らい、吸水してしまい、沈む、という負の連鎖で沈んでしまいます。

上級者の方はフライを水面から回収する時も濡れないように注意してピックアップします。一度吸水し始めたフライはどんどん吸水し、沈みに拍車が掛かってしまうからです。ドラグが掛からずにフライが流れれば沈みにくいので釣りもテンポよく、フロータント処理の回数も減り快適になります。

もちろんフロータントはドライフライの釣りには必需品ですが、その性能を最大限に生かすにはドリフト能力やドラグ回避能力、回収能力などに磨きを掛けることもドライフライフィッシングをエンジョイするには重要な要素です。フライが濡れないように釣りをすることを心掛けるということも技術の一つです。最強のフロータントはもしかしたらナチュラルドリフトなのかもしれません。

以上のように、フロータントのそれぞれの特徴を把握して、使い分けをすることは釣果アップへの大事な要素となります。その時の状況に合わせて最適なフロータントを選び、また合わせてテクニックも磨いていきましょう。

【カテゴリー】フライドレッシング一覧