ツーハンド用フライラインの選び方。毛ばり釣り入門

フライフィッシング入門

ステップアップ

STEP 7「ツーハンド用フライラインの選び方」

ツーハンドの歴史を知る

それぞれの釣りの成立背景の違いを理解する
ツーハンドスタイル

現在ではツーハンドの釣りは多様化していて、それに伴って様々な道具も開発されています。スコットランドのスペイ川をはじめとしたアトランティックサーモンを釣るための道具として生まれたツーハンドの釣りは、世界中に広がるにつれて、それぞれの地域の釣りに合わせていくことで進化してきました。世界で様々な交流が起こる中で、区別も曖昧となってきており、分かりづらくなっているのも事実かもしれません。

大きく分けると以下の4つになります。

スペイ
アトランティックサーモンを釣るために、ある程度限られたバックスペースの中で、対岸までカバーする飛距離を出し、かつフライのスイングのスピードをコントロールすることが必要とされます。フローティングかスローシンクで、フロントテーパーが延々と続く、とても長いラインが開発されました。
アンダーハンド(スカンジナビアン)
同じアトランティックサーモンの釣りでも、スカンジナビア半島では、かなり限られたバックスペースで、流れの速い川で釣りをする必要があります。その中でフライを魚まで届けるために短いシューティングヘッドのラインを使った釣りが開発されました。フローティング、シンクティップ、フルシンキングなど、様々なヘッドが使用されます。
スカジット
アメリカのスティールヘッドを釣るために、ドリフトボートで下っていく途中の様々なコンディションの中で、かなり大きなフライを、やや軽めの番手のロッドで、スイングスピードをコントロールしていくために太いフローティングのベリー部分を持ち、交換可能な(インターチェンジャブル)のティップで探っていく釣りが開発されました。
オーバーヘッド
日本独自の発展をした高番手のツーハンドロッドを使用して、本流や湖でニジマスやブラウンなどをシューティングヘッドのオーバーヘッドキャスティングで狙っていく釣りです。

欧州や北米ではほぼアトランティックサーモンかスティールヘッドのどちらかを本流で釣るために開発されてきたという歴史があります。

ここで重要なことは、どの釣りもまずは狙う対象魚があり、釣りをするフィールドがあり、それに対応するラインシステムが生まれ、それぞれのスタイルがあるということです。これを理解することで、自ずとご自身の釣りに必要なものが分かってくるかと思います。

ツーハンド用フライラインの規格を理解する

AFFTAのスペイライン規格とは何か

フライラインの規格にはAFFTA(American Fly Fishing Trade Association)というアメリカの団体が定めた重さの規格があります。そこへスペイキャスティングの世界的な流行が起こり、それまでの規格では対応できなくなりました。そこでAFFTAは新たにスペイラインのフライライン規格というものを設定しました。

AFFTAフライライン規格
(クリックで拡大します)

ショートヘッドやロングベリーといった様々な長さの種類があるスペイラインを4種類に分類し、それぞれの番手と重さを決めています。ショートヘッドからロングベリーまで、同じ番手でも重さが異なるのはスペイキャスティング時の特性上、ロングベリーラインは重量が分散し、ロッドに掛かる負荷が異なるからです。

ここに今日の混乱の原因の一つがあるのですが、表を見ても分かる通り、例えばシングルの6番とスペイラインの6番の重さがまったくかけ離れています。規格に準拠したツーハンドロッドの6番とシングルハンドの6番では適合するラインウェイトの設定が全く異なることになります。6番のツーハンドロッドに普通のシングルハンド用の6番ラインを合わせても機能しません。

番手表示から重量表示へ
ツーハンドロッドの表示

最近ではシューティングヘッド全盛の時代となり、AFFTAのスペイライン規格すらも有名無実化してきています。番手ではなく、適合するヘッド重量をそのまま「400グレイン(26g)」といったように表示することが主流になってきています。ウェイトフォワード形状のスペイラインでもヘッド部分の重量を示すことが多くなっています。

一見するとこれで解決したかのように思われますが、現実にはフライラインの種類、ヘッドの長さ、ウェーディングの深さ、投げる距離、沈める深さ、さらに言えば技術の差などによって「投げやすい」ラインウェイトは変わってくるため、依然としてツーハンド用フライライン選びは難しいところです。

適切なフライラインを選ぶ

釣りのスタイルを選択する
ツーハンドのスタイル

これまで説明してきたように、一口にツーハンドと言っても様々なスタイルがあります。最近ではさらにそれぞれのスタイルの良いところを取り込んで進化を続けており、境界線も曖昧になってきています。

例えばキャスティング時のループ形状の違いからスペイキャスティングの場合はオーバーヘッドに比べてやや重めのラインを必要としますが、近年では様々なテーパーのフライラインが開発され、もはやオーバーヘッド用ラインとスペイラインの明確な区別はつかなくなってきています。またそもそもアンダーハンドとオーバーヘッドのキャスティングの基本理論は同じで、実際多くのアンダーハンドラインはそのままオーバーヘッドに使用することができます。サイエンティフィックアングラーズのOH&D(オーバーヘッド&Dループ)ラインはこの考えに基づいて設計されています。

かたやロングベリーのスペイラインやスカジットラインはオーバーヘッドには向いていません。もしポイントによってオーバーヘッドとスペイを使い分ける、というようなシチュエーションで釣りをする場合にはアンダーハンドラインを選択するのが得策となるでしょう。

日本独自のスタイル
湖のツーハンドスタイル 最近の日本では湖のフライフィッシングでツーハンドロッドを使うフライフィッシャーが多くいます。これは世界的に見ると珍しいスタイルですが、日本独自のフライフィッシング文化とも言え、やってみると奥深く面白いスタイルです。限られたバックスペースのためオーバーヘッドキャスティングでは攻められなかったポイントも、スペイキャスティングなら攻略可能として先達のフライフィッシャーの方々がツーハンドロッドを持ち込んだことが土台となっています。 このスタイルではシンクレートが豊富に揃っているアンダーハンド(スカンジナビアン)用シューティングヘッドが湖用のラインの主流となっています。

キャスティングスタイルありきではなく、自分の釣りには何が必要なのかというところから考えてみると良いと思います。

スタイルによるロッドの違い
ツーハンドロッド

以前はスペイロッドと言えばダヨーンとしたスローアクションで、オーバーヘッドロッドと言えばパリッとしたファストアクションというイメージがありました。ところが、キャスティング技術の進歩、フライラインの進化、ロッド性能の急速な進歩によって、ロッドもまた明確な区別はつかなくなってきました。最近のロッドではブランク素材に高弾性カーボンが使われ、復元速度の速いロッドに仕上がっていることが多く、極端なティップアクションやバットアクションのロッドを除けば様々なキャスティングに対応できるケースも多いです。

しかし、メーカーによっては「アンダーハンド用」や「スカジット用」と銘打っているものは、やはり奥深いアクションの調整がされており、投げやすさは格別です。その道をしっかりと修得したい場合はベテランのみならず初心者こそ、専用設計のものを選ぶことをお奨めします。

スタイルに合ったフライラインの種類を選ぶ
ツーハンドフライライン

スタイルの多様化に合わせて、フライラインも様々な特徴を持った製品が登場しています。説明をよく読んで、自分が目指すスタイルに合っているものかどうか確認しましょう。

【カテゴリー】ツーハンド用フライライン一覧

たいていは商品名か説明文にどのスタイル用に作られたフライラインなのかが書かれています。(「スカンジ」や「スカンジナビアン」というのはアンダーハンド系であることを示しています)。最近の傾向としてシューティングヘッドのショート化が進んでいることが挙げられます。スカジットラインしかり、スカンジナビアンしかり、商品名に「ショート」や「コンパクト」とつくものは従来のものよりヘッドの長さが短いことを示しています。ヘッドが短くなると本流ではフライのドリフトスイングの形を作りやすく、キャスティング時にはロールアップしやすい、角度変換がしやすいなどのメリットもあります。湖ではリトリーブが手前までしやすいというメリットもありますが、反面、水面に対するラインインパクトが強く、キャスティング時には気を遣う必要があります。

ロッドとフライラインのマッチング

自分の目指すスタイルが決まったら、自分が持っている、もしくはこれから買おうとしているロッドの適合ラインウェイトを把握することから始まります。これはロッドの表記やカタログ説明を確認するか、載っていなければロッドを取り扱うメーカーに直接問い合わせるのが一番です。逆に言えば、ラインメーカーに聞いても、そのロッドでキャスティングした経験が無ければ答えようがありません。

例えばユーフレックスのJTHシリーズでは以下のような提示をしています。

ユーフレックスJTHシリーズ
(クリックで拡大します)

またフライラインの側でも適合するロッドの目安を提示している場合があります。例えば、サイエンティフィックアングラーズのフライラインの中でも人気の高いアトランティックサーモンシューティングヘッドを例にその適合表を見てみましょう。

SAアトランティックサーモンシューティングヘッドの場合
ライン番手 実重量(グラム) 実重量(グレイン) ヘッド長 マッチするロッド例
#5/6 22g 340gr. 約10.2m 11.5~13ftの5~6番のロッド
#6/7 26g 400gr. 約10.7m 12~14ftの6~7番のロッド
#7/8 30g 460g. 約11.2m 12.5~14.5ftの7~8番のロッド
#8/9 34g 520gr. 約11.6m 13~15ftの8~9番のロッド

あくまでもこうした適合表は、メーカーとしては市場で手に入る様々なロッドに対する目安として提示するしかなく、実際の組み合わせでキャスティングしてみないと分からないというのが本音です。前述のように「投げやすさ」はタックルだけの組み合わせの問題ではなく、投げる距離、沈める深さ、キャスティングの技術といったその他の要因もあることを意識しておきましょう。

シューティングラインの選び方
シューティングライン

ツーハンドロッドの世界ではロングベリーやミッドベリーと呼ばれるウェイトフォワード形状のスペイラインを除き、シューティングヘッドシステムが世界的な主流となってきています。アンダーハンドしかり、スカジットしかり、また日本の湖のフライフィッシングしかりといった具合です。それに合わせてシューティングラインの選択も重要になってきます。

シューティングラインの種類と特徴
主に3種類あり、それぞれ短所長所があります。
  1. モノフィラメントタイプ
  2. ブレイデッドコアのフライラインタイプ
  3. モノコアのフライラインタイプ

本流で遠距離を釣るならモノフィラを、近距離を釣るならモノコアもしくはブレイデッドコアのフライラインタイプを、また表層付近を釣るならフライラインタイプ、ヘッドを深く沈めて釣る場合はモノフィラタイプを使うのが一般的となっています。また湖ではフライラインタイプがよく選ばれています。ブレイデッドコアかモノコアかで言えば、一般的に寒い時期でもしなやかなブレイデッドコアを好まれる方が多いようです。

シューティングラインの太さの選び方
表示はモノフィラの場合はライン強度(lb.)で、フライラインタイプの場合は太さ(直径)がインチで表示されています。「025」という表記であれば、0.025インチのことで、約0.64mmとなります。020、022、025、031、038といった太さの種類があります。細ければシュート時の抵抗が少なく遠投性能が上がりますが、反面ハンドリングが悪くなりリトリーブのミスやフッキングのミスを起こしやすくなる可能性があります。また、ヘッド重量に対して細すぎるシューティングラインを組み合わせるとパワーがうまく伝わらずターンが悪くなります。ヘッドとシューティングラインはバランスが非常に重要になります。
【カテゴリー】シューティングライン一覧

ツーハンドのシステムは確かに複雑ではありますが、既製品をそのまま組み合わせて使うこともできますし、また創意工夫で自分にあったオリジナルのシステムを生み出すことも可能です。試行錯誤しながらぜひ楽しんで自分のスタイルを見つけてください。

【カテゴリー】ツーハンド用フライライン一覧