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小甲 芳信

Fly Fishingプロスタッフ小甲 芳信 カブちゃんの北の便り「友達に釣らせてもらった記録更新のナナパー・アメ」

2022.05.10

カブちゃんの北の便り「友達に釣らせてもらった記録更新のナナパー・アメ」

今年は冬の間のエサの状況が良かったのか、水温がマッチしていたのか、驚くほど良型の海アメマスやサクラマスが多数釣られていました。これは近年希にみるチャンスではないだろうか?と、桜前線が通過中の北海道では海に川にと、アングラーたちに忙しい季節が到来した模様でした。そんな中で、先日ボク自身本当に久しぶりとなる“サケ稚魚へ一日中断続的にボイルしているアメマスを狙った釣り(以後の記載は「サケ稚魚の釣り」)”を展開でき、北国の遅い春を満喫してきました。

 

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以前書いたカブちゃんの北の便り『鮭チーボイルを求めて2020.04.02』でお伝えしたように、サケ稚魚を狙う海アメには幾つかのタイプがいて、ボクがこれまでもコンスタントに釣っていたのは、めぼしいピンスポットをサケ稚魚パターンで撃ち抜くブラインドでの釣りでした。それぞれのタイミングで待ち伏せしているアメマスを狙うことで、フライを通すと抜群の反応を示してくれていました。

 

もともと“サケ稚魚の釣り”と言えば北海道では多くの方がご存知の通り、目の前の海では至るところで無数のボイルで飛沫が上がり、それはまるで青物みたいな『ナブラ』と称したくなるほどに迫力がある瞬間でした。群れ泳ぐサケ稚魚へアメマスらが恐ろしい勢いで襲い掛かるシーンの中、釣り人は必死に冷静さを保ちながら沖合いから波打ち際までの幅広い射程圏内で狙う釣り。

 

正直これは、体験して頂かないことには、この迫力を文章で全てお伝えする自信はないのですが、本州で“ヒゲナガのスーパーハッチで狙う尺ヤマメ”的な感覚と言えば解って頂けるでしょうか?兎に角圧巻のシーンの連続なのです。60センチを優に越える大型アメマスが交りあい、10匹以上の群れとなり接岸し、背中の水玉模様がハッキリ見えるほどの至近距離で「ガボガボッ!」「ゴボン!!」と刺激的なボイルを繰り返すのです。

 

このコーフン度MAXの瞬間を心待ちにする人も多く、防寒着とラインバスケット等フル装備の我々は、あまりの歓喜に寒さも忘れ重たい身体で浜を行ったり来たり走り回るのです。シーズン終了を迎えた際のお酒の席では、この釣りの翌日に下半身が酷い筋肉痛になった思い出をよく笑い合ったものでした。

 

さてさて、話しを戻すと、これまではブラインドとは言え良型の筋肉質なゴリゴリのゴン太アメマスを釣っていながら、一方では好みの釣り方を選ぶだなんてとんでもなく贅沢な話しだと言うことは重々承知しているのですが、やはり人間は欲深い生き物ですね・・・麻薬的な魅力を持つそのシーンの為に、常に河口域ではボイルの有無を確認し、たくさんのサケ稚魚パターンを巻き揃えるのです。更には「釣れる!」と聞けば盲目的に指定のマテリアルを買い揃えるのですから、お小遣いがいくらあっても足りません。

 

しかし、不思議なことに、凡そ30年近くも前にこの釣りを始めて以来、全くと言っても良いほどに代表的なサケ稚魚のフライパターンには進化が見られなく、UV素材やウイングマテリアルの材質が変わるなど、多少の変更はあったものの、マイラーチューブの上にバックテールやマラブーなどを用いたり、ジーロンを乗せたりする基本的な構造は30年前とほぼ変わらずでした。

 

逆の言い方をすれば、それほどまでにムダを削ぎ落とした釣れる要素を盛り込んだフライパターンだったのでしょう。そんな北海道では由緒正しいサケ稚魚フライパターンでしたから、ボクも妄信的に使い続けていたのですが、時折どーしても腑に落ちないことがありました。それは、ボイルしている魚の数と、釣れる魚の数に多くの隔たりが生まれるのです。いや、ハッキリ言うと、コチラが思っている以上に釣れないのです。何よりも、とても多くの魚に見切られる瞬間が多々あったのです。

 

更にはそんな不信感に追い打ちを掛けるように、時折針に引っ掛かってしまう本物のサケ稚魚と己のフライパターンを比べた時に、あまりの違いにフライに対しての不信感はますます大きくなっていくこととなったのです。実際に、現場で本物のサケ稚魚とボク自身のフライを並べ比べた写真を見てもらうと、掌の上でそれはもはや“夕張メロンと特売品のキュウリ”ぐらいの違いに感じるのではないでしょうか?

 

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しかし、これほどの違いがあったのにも拘らず、これまでのフライでも時折釣れてしまうから敢えて深い答えを探さなかったのも事実。元々サケ稚魚の釣りでは、ボイルに撃ち込むタイミング等ハードルが高いから燃える部分もあり「フライパターン云々ではない、他の要素が重要だ」と考えていた部分もあったのは確かでした。そこがボクのダメな所だったのかもしれません。

 

昨年の4月中旬には、自宅からほど近い砂浜で小規模でしたがサケ稚魚を追い回す多数のアメマスのボイルがありました。しかし、この日釣れたのは、小型がたったの1匹。これには参りました。完全な敗北です。そこで、サケ稚魚フライパターンを根本的な所から見直し、ヒゲナガピューパへライズしている尺ヤマメをヘアーズイヤーで誤魔化すのではなく、マシュマロピューパで食わせるような構図へと移行させていったのです。

 

そうして構想を重ね、サイズやシルエットなどの変更が容易で簡単に巻け、ロストの激しい釣り故にコストも低めに抑えられるサケ稚魚フライパターンができあがったのです。しかし、出来栄えを試す良い機会に恵まれないままワンシーズンが過ぎてしまい、多少の変更を経て今のタイプに落ち着きました。

 

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そして先日ついに新作サケ稚魚を試す機会が・・・

 

その日、誰もいない磯場で竿を振っていると、久しぶりに会う友人がわざわざ遠い道路からボクのところまで来てくれて、

 

「アレ?やっぱりカブちゃんだよね?」

「久しぶり!」

「元気だった?」

 

と、顔を見せに来てくれました。お互いなかなか会って話もできない距離の街に住む友人ですから、しばし歓談したのちに、

 

「あ、そー言えば、俺が帰るまで時折ボイルしてたよ。朝イチからサケ稚魚のボイルが断続的に続いてるから、まだこれから夕方までやってるんじゃないかな?」

 

と教えてくれ、良いサイズのアメマスも回ってくることをおしえてくれました。そんな状況を聞いたボクは、居ても立っても居られず別れの挨拶もそこそこに他の友人と共に車を走らせました。着いた先のサーフでは、単発でしたが時折「ガボッ!」と、飛沫があがります。どうやら“宴”のピークは過ぎ去ったけれど1匹や2匹は残っていたようで、いそいそと例のサケ稚魚パターンを結びます。

 

そしてアプローチを始めて数分もした頃でしょうか?沖合から5~6匹の集団が2グループ、左右に分かれてボイルを連発しています。中には60cmをはるかに超えるサイズのアメマスも見られる状況です。さて、こんな時のボクなりの攻め方を、お伝えしたいと思います。多くのエキスパートの方々には今更懐かしいお話かもしれませんが、しばしお付き合い下さい。

 

経験豊富な海アメアングラーならばご存じのことと思いますが、ボイルに対して慌てて投げ入れたところで、殆どの場合魚はすでにフライとはかけ離れた方向へと泳いでいます。これは、アメマスがクイックに方向転換を繰り返し逃げ惑うサケ稚魚を襲うためなので、モグラ叩きの要領では殆ど間に合わないのです。また、意外に思うかもしれないが、実はアメマスは補食が下手なようで、派手に飛沫を上げているもののあまりサケ稚魚を捉えられていないようです。

 

そこで使うテクニックは、アメマスが泳いでいるであろう範囲やコースを予測してのデッドスローリトリーブなのです。もう、このフライは御覧の通りシルエットが崩れることはないので、水面のラインのフケを取るぐらいのリトリーブで十分なのです。そうすると、アメマスの方で勝手に弱ったサケ稚魚と思い込んでくれるのか、突然ひったくって行くのです。逆に、このフライはエクステンドボディータイプなので、通常のピッチでのリトリーブでは、食い損ね=ミスバイト&フッキングミスが多発してしまいます。

 

また、これはあくまでボクの主観ですが、広大な浜辺であってもアメマスがボイルを起こすポイントは、だいたい同じスポットで起こる場合が多いのです。きっと海底の形状や潮流の加減などが影響しあっているのでしょう。同じ範囲内をグルグルと回遊している個体も見受けられます。そんなめぼしいスポットを確認できたなら、あとはアメマスらがフライを見付けてくれるようスローシンキングのラインでゆっくりと水面付近を引いてくるだけ。この時も「頼むから食ってくれよ?・・・・」と、半ば祈るようにリトリーブを繰り返していました。

 

もう水面にあったフライラインは、殆どがラインバスケットの中です。残りもティップの先から5メートルも無いぐらいまでに来ていた時です。白っぽい砂地の海底から、真横に深青の線を引いたように色が変わるカケアガリの真下。まるで忍者の雲隠れから現れるように、突然スゴイ太さのアメマスが「スッ」と近寄り、全く慌てる様子もなく静かにボクのサケ稚魚を吸い込んだのです。もう、呆気にとられながらも、頭の角度が変わったところを確認しながら渾身のフッキング。そこからは、馬鹿力とタフさを重ね合わせたような恐ろしく重強いファイトの始まりでした。

 

これまでも最高のパフォーマンスを持ったクロスS-1に散々助けられてきましたが、今回だけは“竿でいなす”ことなどほぼ不可能。ひたすら竿を倒して、ささやかとも取れる抵抗をするのが精一杯でした。ですが、この時使用していたのは0Xのリーダーに同0Xティペット。そして砂浜だったこともあり、根ズレ等で切れる可能性は殆どないとは思っていましたし、魚をホールドしているフックもTMC784の#4ということもあって、多少の強引な場面があっても心配するほどではなかったのが幸いでした。

 

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しかし、あまりの重さに波打ち際で友人にランディングを手伝って頂き、そのまま友人がホールドしてそっとスケールをあてがうと、控えめな声で

 

「ふぉっ!?」

「ナナ・・・ナナジュウ・・・ナナジュウ・・・ハチィ~イ!?」

「えっ!?ナナジュウハチイィィィィ???」

 

多くのエキスパートたちが仰っているように、ハッキリ言ってこの釣りでの魚の大きさはほぼ『くじ引き』のようなモノで、たまたま針掛りしたのが30センチか60センチかの違い。だがしかし、サケ稚魚ボイルの釣りでは、割りと大型に的を絞って狙えるところも楽しさを倍増させる大事なファクターだとは思っていました。ですが、久しぶりとなるこの釣りでいきなり78cmが出るとは、もう驚き過ぎてその後の釣りは腑抜けのようになってしまいました(笑)。

 

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ランディングを手伝ってもらった友人にも、この釣り方で65cmの筋肉質で鼻先が尖った男前アメマスが食らい付きました。こちらも、竿先から根元までをガッツリ曲げてくれたパワーファイターで、友人もそのトルクフルな引きを堪能しているようでした。

 

さて、このサケ稚魚の釣りを堪能できるのは凡そ4月いっぱいだと思いますが、それは同時に気温の激しい乱高下があるこの季節の気候に対応しなければならない季節。早朝はたったの一桁で2~3℃しかなくとも、日中は20℃近くまで上がることも珍しくありません。それでいて、曇りや雨天には日中でも9℃や8℃と一桁へ落ち込むことも・・・

 

そんな肌寒さを通り越した気温時には、保温性の高いインナーも重要なアイテムになりますが、やはり着たり脱いだりが容易な汎用性と保温性の高いアウターが重宝します。そしてそこには、当たり前のように防水性能は必須条件となり、ちょっとやそっとでは壊れないタフさも当然必要になるでしょう。そんないくつもの条件を兼ね揃えてくれた新たなアイテムが、フォックスファイヤーから販売されている『ストームトレーサージャケット』です。

 

このアイテムならば体温を奪われる浜風から確実に身体を守ってくれ、尚且つ立体的なパーツのカットによって、キャスティング等スムーズな動きが約束されていることで、海アメなどのフィッシングシーンではとても助かるアイテムではありました。この『ストームトレーサージャケット』ですが、1月~2月の厳寒期などには、別売りのダウンやフリース等を内蔵しているジップで組み合わせることで最強の防寒着になりますし、本品単体で着ると、寒暖差の激しいこの季節にはちょうど良いアウターとしても活躍してくれることも、お伝えしておきます。ボクは、ちょっとスタイリッシュでお洒落な感じを受けるブルーを着ているのですが、これまでのアウターの地味さを一変する雰囲気がとても気に入っています。

 

さてさて、これまで海アメの釣り方に焦点を当ててお話させて頂きましたが、最後に一つだけボクの中の心配事をお伝えしておきます。これまでは釣り場に限らず、様々な所で魚類の増減が起こりました。バイオリズムの一環で、群れ全体が大型化してはある時を境に小型化に転じてみたり、またある時を境に爆発的に増えた群れが突如壊滅的減少に転じてみたり。今季のように釣れる魚が大型ばかり揃うシーンの裏側には、何か気を付けなければならない事象が隠されているのかもしれません。

 

ですから、より多くの方々に現場に来ていただいて、現在の釣り場で何が起こっているのかをつぶさに見て頂きたいと思うのです。そして1日でも多く釣竿を振っていただき、そのついでに環境の変化に気が付いて頂いたり、釣り人同士の交流を育んで頂いたりして欲しいとも思っています。目の前のゴミを拾うとか、フィールドに対する関心ごとをSNSで発信される等の行動を起している方々も多くいらっしゃいますので、どうかこのような素晴らしい釣り場環境が永遠に残って欲しいと強く願ってやまないのです。

 

さてさて、柄にもなく少々硬いお話になってしまいましたが、これにて今期のアメマス・サケ稚魚フィーバーのお話はおしまいです。今後は雪代の収束が早まれば、さっそく川にも出向くので、何か面白いお話に出会いましたら、またお便りしたいと思います。それではまた!

 

 


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