魚とのファイティング・テクニック。毛ばり釣り入門

フライフィッシング入門

アドバンスト

STEP 12「ファイティング・テクニック」

ファイティング・テクニックの重要性

初心者の頃は魚を針に掛けるまでのことに集中してしまって、魚を掛けた後のことは後回しとなりがちです。それでも運よく魚が掛かった時には、魚も小さいことが多く、状況もシビアではないため、フライラインをただ単純に手繰り寄せるだけで魚が釣れることも多いです。しかし、これから素晴らしい魚に出会うためには必ず「ファイティング」という魚とのやり取りのテクニックを身につけなければなりません。これは海の大型魚のような世界だけのテクニックではなく、ヤマメ、イワナ、ニジマスといった淡水魚の釣りでも必要です。

フライを投げる前の準備
フライを投げる前の準備

初心者と上級者の違いは、魚を取り込むところまでを考えて釣りに臨んでいるか否かの違いです。釣りを始める前に、そのポイントの障害物の有無、ターゲットのサイズなどを考慮したタックルシステム、どこでランディングするか、などがしっかりと準備されています。

その上で、ティペットの太さ、ロッドのパワーやアクション、フライラインのタイプ、ティペットの素材、フックのサイズ、水深、流速、魚との位置関係から、果ては魚のコンディションや自分自身の体力などを総合的に判断しつつファイトをしなければなりません。

魚を取り逃がす直接の原因
魚を取り逃がす直接の原因

フッキングした魚を取り逃がす直接の原因としては3つのパターンがあります。

  • ①ティペットやリーダーが切れる。もしくは結び目がほどける。
  • ②フックが折れる。もしくは伸びる。
  • ③フックが外れる。

①と②はテンションを掛け過ぎた場合に起こりやすく、③は強引なやり取りをして魚の口が切れてしまった場合、あるいはテンションが弱すぎる場合に生じます。つまり、魚を取り込む確率を上げるには、バランスの取れたタックルを用い、常に適切なテンションを保つことが重要です。ファイティングで大事なことは「常に適切なプレッシャーを掛け続ける」ということに尽きます。問題はこの“適切”というものが場面場面で変わるために難しいのです。

ファイティングのやり方

フッキングした魚は、すぐさま全力で抵抗しようとする場合がほとんどです。釣り人とは逆の方向に走ったり、急に方向転換して釣り人の方に向かって泳いだり、ジャンプしたり、障害物のそばに隠れようとしたり、さらにはティペットを自分の体に巻きつけ、切ろうとするものまでいます。こういった魚の抵抗に注意深く対処しなければティペットを切られたり、せっかくフッキングしたフライを外されたりして、取り逃がすことになります。

最初の抵抗
ファーストラン

まず魚が走った(※1)場合ですが、障害物などが無い状況であればタックルの限界値を超える(ティペットが切れる)前にそのまま走らせ、魚が止まるのを待ちます。それには“十分なテンションを保ちつつ”、魚の走りに合わせてラインを出してやることが必要です。完全にフリーな状態で魚を走らせてはいけません。この時に余っているフライラインを握っている手を放してフリーにしてしまうとテンションが緩んで魚が外れる可能性が高まり、かつ魚のコントロールを失います。

魚の動きの速さ、力の強さ、使っているティペットの太さなどによって変わりますが、ここで可能な限りプレッシャーを掛けられれば、コントロールを失わず、より有利な立場に立つことができます。
(注※1: 魚が逃げるために速いスピードで移動することを釣り人は“走る”と表現します。)

掛けられるプレッシャーの限界点を知る
掛けられるプレッシャーの限界点

ファイティング中はその時に使っているタックルで最大に掛けられるプレッシャーを体感的に感じ取る必要があります。こればかりは経験がものを言う部分です。単純にティペットを手に持って強度を感じても、それはフライロッドを通して、フライラインとリーダー、ティペットの長さ、フックの弾力性などによって力を吸収してくれた場合のテンションとは全く違います。実際、ティペットをどこかに結んでロッドで引っ張っても、相当な力でないと切ることは難しいです。

瞬間的な負荷とジワッと負荷を掛けていった場合の違いもあります。ナイロンの糸は瞬間的に力が加わるとプツッと簡単に切れてしまいます。魚が走り出したり、ジャンプする瞬間には特に集中する必要があります。また実際の釣りでは水面や水中にあるフライラインの水の抵抗も考えなければなりません。

ロッドの使い方を知る
ロッドの使い方

しっかりと最大限のプレッシャーを掛けるにはロッドの使い方も重要となります。ロッドを上に立て過ぎてティップ部分だけがいくら曲がっていても魚には全くプレッシャーが掛かっていません。逆にロッドを立てずに十分に曲がっていないと、ラインで直接引っ張り合いをしているだけで、ロッドの吸収力を生かせず、魚のちょっとした動きでティペットは簡単に切れてしまいます。ロッドのバット部分を意識して、そこを曲げていくような角度にロッドを保持することではじめて魚を動かしていくようなプレッシャーを掛けていくことが可能となります。

リールの使い方を知る
リールの使い方

大物の場合、針に掛けたら余計なフライラインを巻き取り、リールでのファイティングに切り替えます。この時にラインを巻き取ることに意識がいってしまい、ラインのテンションが緩まないように注意します。魚のスピードが速い場合は落ち着いてから巻き込んでも構いません。

ドラグはティペットが切れる限界値付近には設定せず、かなり手前でラインがヌルッと出ていく程度に予め設定しておきます。フライリールの場合はドラグ任せにはせず、「パーミング」と言って手でリールのリムを押さえることによって追加のブレーキを掛けることができます。このため、ドラグが弱い場合はパーミングで力を簡単に追加できますが、逆に強すぎる場合はドラグをファイト中に緩めるしか方法がないからです。人間の手はとても感覚が鋭く、些細な変化にも気付くことができます。最高の可変ブレーキシステムと言ってもよいでしょう。(※2)
(注※2: 海などの大型魚の場合はとてつもないパワーがありますので、この限りではありません。回転するリールに触れることが大変危険なこともありますので、ドラグのセッティングもまた変わってきます。)

プレッシャーの掛け方
プレッシャーの掛け方

ファイティングとは単純に魚と引っ張り合いをすることではありません。“適切な”テンションを“適切な”方向へ掛けることで、可能な限り短い時間で魚を取り込むことです。よくある誤解の一つとして、図の左のように魚が進もうとしている方向と正反対側にプレッシャーを掛けるということがあります。これでは最大限の推進力を得ている状態の魚と単純に綱引きをしているだけで、釣り人は全くコントロールできていません。図の右のように常に角度をつけてバランスを崩させ、方向感覚を失わせる方向にプレッシャーを掛ける必要があります。

ロッドを傾ける理由
ロッドの角度の付け方

魚の最初の走りをうまく切り抜けて一旦止まったら、今度はロッドに角度をつけてプレッシャーを掛けていきます。ロッドを左右のどちらかに倒すことで魚の向かっている方向に対して角度をつけることができます。よくファイティング中にロッドを右に左に忙しくロッドを動かしているのを見かけることがありますが、むやみやたらにロッドを動かしてもテンションが抜けてフックが外れる危険性が増えるだけで意味がありません。

魚のバランスを崩させるには、魚が進もうとしている方向に対して横からの力を掛けていきます。魚というのは真っ直ぐな推進力はあっても横からの力には弱いため、頭を横に向かせることができます。その状態で魚が走ろうとすればその推進力によってロッドが導く方向へと動いていきます。これを滑らかに繰り返しつつ、蛇行するように魚を左右に動かしていきながら、ラインを回収して魚を寄せてきます。

最後の抵抗
最後の抵抗

魚を寄せてきた時に最後の抵抗を見せることがあります。この時にロッドティップを下げて水中に突っ込み、ロッドのバットの力で魚に真横からのプレッシャーを掛けることで、魚が行きたい方向に向かせないようにします。ここを止められれば魚は諦めたように水面に上がってくるはずです。これが海のフライフィッシングの世界で生まれた「ダウン&ダーティ」と呼ばれるテクニックで、淡水の大型魚にも有効な場合があります。

以上のテクニックを全て駆使しても、それでも大きい魚の場合は走られることもあるでしょう。大型魚というのはそれほど狡猾な存在です。障害物に入ってしまう場合もありますし、流れにのって走られたら、もう止まることはありません。そのため、必要以上に細いティペットを使わず適切なタックルを用いて、一瞬でも気を抜かず、常にコントロールを握って、最短時間で取り込むことが求められるのです。